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No.627(2021/6/9)
ロシアで建設労働者、賃金の未払問題でスト

 千島列島の最北端の島、パラムシル島(1877年から1945年までの日本統治時代には幌筵島と表記)をご存知だろうか。地図を見るとカムチャッカ半島の目と鼻の先だが、フェリーで20時間かかると言う。島の中心集落がセベロ・クリーリスク(柏原)だ。

 今年4月21日セベロ・クリーリスクで建設労働者のストが起こった。使用者はスピロという名の建設会社で、150名がストに参加し同社従業員のほぼ全員がストに参加したとのことである。彼らの要求を見ると、1)未払賃金の支給、2)労働協約の一方的変更への抗議、3)食料など生活条件改善、4)特別な作業服を含む労働安全施策の改善である。(Actvニュース)
 ロシアで賃金の未払が多発したのが、ソ連邦崩壊後の1990年代であった。その後、法整備が行われ、暫く鳴りを潜めていたが、今コロナ禍の中再び増加の傾向にあるようだ。スビロでは、2月から賃金の大半が払われていなかった。賃金の未払は、労働事案としてばかりではなく、行政事案、刑事事件としても取り扱われる。今回マスコミは検察の動きを多く報道した。Actvニュースによれば、4月22日「サハリン州の検察と調査委員会(SK)はビデオ会議の形をとって労働者達と対話を行った。検察は、労働者達の意見をよく聞いたが、スピロの使用者が、労働者の権利を尊重しているかどうか細かい複雑な問題があるので、地区の検察に対応を任せるとした。サハリンの検察局からパラムシル島に実際に検事が向かっている。スピロの労働者の賃金の未払については、これを刑事事件として告発する(ロシア連邦刑法145条の1賃金の未払)ことをにおわせた」とある。

 賃金未払問題は、ロシアをはじめとする旧ソ連邦諸国ではしばしば問題になる。2016年10月発行のユーラシア研究所レポートに載った堀江典生氏の論文「経済危機に耐える労働市場:ロシア的対処法」によれば、「企業の従業員が賃金よりも職の確保を優先する状況で、企業が採用する短期的危機回避行動は、従業員への賃金未払である。賃金未払問題は、被雇用者に対する債務として企業側に蓄積されていくために危機に対応するやむを得ない問題の先送りであるにもかかわらず、ロシアでは伝統的に活用される雇用調整手段」とある。勿論労働組合を始めとして、このような手段に対する反対は強く、この手段はロシアでは2010年以降は犯罪行為となった。ただ他の旧ソ連圏諸国ではまだ犯罪と見なされない国もあり、JILAF招へい事業でそれらの国からの参加者からは、しばしばこの問題が取り上げられた。

 その後明らかになったところでは、労働者は給与について使用者と月額1万2000ルーブルの労働協約を結んでおり、それ以外の部分(4万~5万ルーブル)は別のスキームで受け取ることになっていた。しかし2月からこの部分が支払われなかった。実はロシアで建設労働者として働いている労働者のほとんどは中央アジアからの移民労働者である。賃金の一部を定期的に受け取り、別の部分を別のスキームで受けることは、移民労働者の場合よくあるケースである。誰も職場に来ないので、食堂は閉じられ、労働者は食事もできないと訴えていた。

 集落の人口は2500人であり、このストが集落に与える影響は大きい。とりあえず行政の側は次のような支援を労働者に対して行うことになった。

  • 消防署などサハリン州の行政機関の食堂を共用する。
  • セベロ・クリーリスクの漁船団が魚を供給する。
  • 地方自治体が補助費を使って食料の援助を行う。
  • もし労働者が解雇となった場合、州政府は他の建設職場や他の仕事をあっせんする。
  • 送金については運輸省が労働者を支援する。

 今回の問題と迅速な当局の反応には前史がある。2018年5月にもスピロでは同様の問題が発生している。当時は労働者送り出し国であるキルギスタンの大使館が間に入って問題を解決したようだ。

 その後4月29日Actvニュースによれば、「今回、スピロは4月28日1200万ルーブルの未払い賃金を労働者に支払った。検事局は労働者の労働安全衛生問題、移民に関わる法的問題などが解決されるかどうか、引き続き監督を行っていく」としている。今回の労働者の闘いの勝利はロシアで移民労働者が労使紛争に勝利を収めた点で大きな意味があると言えよう。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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