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No.626(2021/6/7)
共和党議員が新労働運動を提唱、そして政府労働タスクフォースの発足

 米国政界に労働組合強化のための2つの力強い動きが出てきた。
 その第一は、4月16日のワシントン・ポストが紹介する共和党のマルコ・ルビオ上院議員提唱の「新たな労働運動構築の考え方」である。

 この提唱は、労働者の発言を強化する新たな労働運動の枠組みを模索するものだが、欧州における産業横断の部門別労使交渉システムの必要性を挙げており、特にドイツの労働協議会(労働組合が無い企業にも義務付けられる労働者代表選出の委員会)、そして大企業役員会への労働役員選出を定めるドイツの共同決定法について述べている。
 またカナダの失業保険と職業訓練の両機能を持つ労働組合、さらには労働法に関係なく労使協定が自治機能を発揮する制度をも記述している。

 ルビオ上院議員はフロリダ州選出で49歳。キューバ系アメリカ人の弁護士で、2016年には共和党の大統領候補を争った。労働組合強化の必要性を提唱しつつ、先日のアマゾン社の労働組合結成には、共和党議員として唯一、支援活動を展開した議員である。
 彼の労組理解は、調理師組合の組合員だった父親と並んでストライキ・ピケに加わった時に「全ての労働者にはそれぞれ尊重すべき主張がある」と学んだことからはじまり、生産的な労使関係を育成する法律の必要性を痛感したと言う。そして過去数年、労働組合育成の必要性と公平な資本主義を唱え続けている。しかし団結権保護法案(PRO法案:下記注)は労使対立を煽るとして反対している。

 上記提案はまだ素案の段階だが、十数名の共和党有力者からも賛同があり、労働組合指導者とも会合を重ねていると言われる。しかし労使それぞれの内部に強い敵対意識があり、大きな抵抗が予測される。
 労働界からは、全米通信労組のシュライバー前会長が「アマゾンの敗北でPRO法案を超えた部門別労使交渉制度の必要が見えてきた」と述べ、サービス労組(SEIU)のヘンリー会長は「大統領と労働長官がマクドナルドとアマゾンなどの大企業に対して政労使による交渉を提案できれば、大きな力になる」などを語っている。(以上ワシントン・ポスト)

 以上が要点だが、共和党議員から労働組合強化の必要性が提起された点が注目される。
 そして第二は、これもワシントン・ポストの4月26日の記事が伝える「バイデン大統領の行政命令による労働組合強化のためのタスクフォースの発足」である。

 タスクフォースはハリス副大統領が議長、ウオルシュ労働長官が副議長となり、20人以上の閣僚級人物を結集して、労働組合強化のための対策を立てるよう命じられた。(以上ワシントン・ポスト)

 対策案提出には数か月を要すると予測されるが、PRO法案を目の前に置きながら、共和党のルビオ上院議員からの労働組合強化提案をにらみつつ、タスクフォースを始動させたバイデン大統領には、米国労使の分断を避けながら、多くの意見・賛同を集めて革新を進めるという、熟練政治家ならではの周到かつ力強い布陣が感じられる。中間所得層の復活を念願とし、柱の中心に労働組合強化を据える大統領だが、今までにない大いなる希望が生まれた。

 筆者は機会をとらえては、米国労組が闘争主義から脱して、労使対話の制度化や一般労働者を包含する労働政策の展開など、社会の共感を呼び起こす必要を強調してきた。
 しかし米国労組には伝統的に使用者に対する敵対観念が強く、労使協議に消極的である。2019年6月、UAW(全米自動車労組)はフォルクスワーゲン(VW)工場の組織化に失敗したあと、ドイツ労組の支援を受けて同工場の労使協議会に参加することになったが、この折角の機会にも、実りある労使協議の話は伝わってこない。

 他方、VWのような労組理解がない米国では、共和党や使用者側からの労組攻撃が激しく、全米50州の半数を超える27州で組合費納入と組合加入を従業員の自由意志とする「労働の権利法」が採択されて、労働組合の存続が困難になっている。

 何故、労働の権利法が成立してしまうのか? 思い出すのは数年前、「労働組合のことを聞かれた南部地方の子供たちが『怖いおじさんたち』と答えた」とする新聞記事である。
 こうした一般住民の労働組合意識が多くの州での労働の権利法採択を許していると言える。

 2020年9月のGallup調査では「労働組合が必要」とする意見が65%にまで高まっているとされながら、労働の権利法採択州が増加したこと、また労組組織率が低迷する、このギャップをどう説明するのか? 一般労働者は労働組織を必要としながらも、“現行の労働組合”とは違う組織を求めているのではないか。

 政権が変わるたびに労働法が改定され、安定した労使関係が築けない風土の中で、米国下院を通過した労働組合保護のためのPRO法案は、労働界からは不当な労組抑圧を取り払い、労組結成を容易にすると強く期待されている。
 しかし上院の法案通過には60%の賛成が必要とされる。現在の勢力は民主党50、共和党50の同数で最終承認は議長となるハリス副大統領決済の民主党有利となっているが、上院には少数意見を無視しないこと、そして妥協を勧めるための長時間演説を認めるフィリバスター(議事妨害)が伝統的に存在し、これを阻止するには100議席中の60議席を必要となる。

 また「PRO法案には共和党議員だけでなく、共和党地盤からの当選者などを中心に民主党にも5名の反対者が存在する」ことにも注目しなければならない。(4月14日 Deep Dive)

 以上で述べてきたように、労働組合に対する不信感や敵対意識には容易ならざるものがある。米国の労働運動に労使協議制は根付かず、長年に亘って民主党、共和党政権の交代で変更される法律を頼りに、重要な自治的、自主的な労使理解よりも法律が優先してきた。
 言うまでもなく、労使関係の基本は強者が弱者を支配するのではなく、日常の対話と相互理解による労働環境の改善、企業の繁栄、労働者の賃金労働条件の向上である。労使対話には嘘も出てくる。一方的な上意下達や頑迷な主張も入り混じる。その中で、相互理解と信頼を築くには地道な努力の積み重ねが必要である。
 法律に頼ってきた米国労使が相互理解を醸成する機会をどうつかむのか? その機会を今回のルビオ提案とタスクフォースがどう提供できるのか?
 
 日本の読者各位にはそうした認識に立ちながら、下記のPRO法案の骨子を読み比べて頂き、ご自分の企業の労使関係を見つめ直す参考になればとも思う。

(注)団結権保護法(PRO)2021とは:
https://www.natlawreview.com/article/labor-law-reform-horizon-ten-things-to-watch-under-pro-act(National Law Review)

 第一次PRO法案は2020年2月に民主党多数の下院で可決されたが、当時共和党多数の上院では審議に上らなかった。
 PRO法案の内容は第2次大戦終了以来の最大の改革を目指すもので、全国労働関係法(NLRA)を大幅改訂して、労働組合の保護を画期的に広げ、不当労働行為の規定を増やしながら、罰金、罰則を強化、会社役員や管理職に対する個人損害賠償などを規定している。

RRO法案の主要点は:

1)現在27州で施行されている労働の権利法(労組加入や組合費納入を従業員の自由意志とする法律)を無効化して、組合費支払いを義務化し、納入拒否には解雇もある。

2)ストライキ労働者の解雇を禁じ、代替労働者の採用を禁止すると共に、山猫ストもその対象とする。またロックアウトを禁じる場合もある。

3)ストライキやピケは当該企業だけでなく、関連企業にも及ぶことができる。

4)従業員の範囲を独立契約労働者、スーパーバイザーにも広げて、労組加入を認める。
 また、フランチャイズ・チェーン店と本店との共同経営責任範囲の解釈を広げ、直接コントロールにない本店にも責任を広げる。

5)労組結成後の最初の労使協定に合意が成立しない場合、連邦裁定官は連邦ないし地域企業の労働水準を標準に裁定を下す。

6)裁定時の従業員側の必要書類提示を軽減し、従業員による団体訴訟を容易化する。また労組結成の際の会社Eメールやデジタル通信の利用を認める。

7)労働組合結成に際しては、労働関係委員会への申請後8日以内のヒアリング、選挙時期や郵送などの投票方法、選挙場所も労組申請に基づきNLRBが定める。何処の職場まで含めるのかなどの結成範囲も労組が決める。選挙は労働関係委員会(NLRB)が監督するが、労組結成が否決されたときも、1年間、労組承認署名者をベースとする労組の代表権を認める。

8)今は廃止されたNLRB規則のブロッキング・チャージ・ポリシー復活を定める。このBCPは過半数を失った労働組合が不当労働行為を申し立てた場合、労組承認投票の実  施ができないとするもので、再投票が数年に亘り実施できないケースもある。

9)損害賠償、罰則、個人的責任の規定。NLRA違反への使用者責任には従業員への全額賠償の他に、罰金として1件ごとに最高$50,000、再犯には$100,000の罰金。個人責任が問われるときは個人賠償、更には従業員に訴訟の権利も認める。

10)労働関係法は稀なケースとして、広範囲かつ解雇など深刻な労働法違反には労働委員会の差し止め命令を定めているが、PRO法案はこれを標準化して、調査途中でも地域の労働関係委員会が命令を発令できる。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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