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No.624(2021/4/30)
ウーバー運転手などギグ労働者に関する英国最高裁の判決

 英国最高裁は先月、ウーバー運転手などのギグ労働者を独立契約者ではなく“ワーカー”と区分して、最低賃金や諸手当の権利を認める判決を下したが、3月21日のニューヨーク・タイムスは判決にある「ギグ労働者はより平等な待遇を受ける権利がある」との記述を引用しつつ、「どうして、英国のウーバー労働者の待遇のほうが良いのだろうか?」とする社説を掲げた。要旨は以下のとおりである。

 カリフォルニア州では昨年11月、ウーバーやリフトなどのタクシー会社の起案により、アプリ・ベースの労働者を独立契約者と認定し、一定の諸手当を付与しようとする“提案22”法案の住民投票の実施により、同社運転手が州法で定めた従業員ではなく、独立契約者とすることに住民の賛成を得て、一般労働者に対する労働保護を与えなくても済むことになった。
 ウーバーの急成長の要因には、弾力的な勤務スケジュールを引き換えにして、最低保証賃金や会社健康保険、有給休暇、失業保険を認めず、運転手を独立契約労働者として、僅かの手当しか支給しないことがある。裁判所や州政府に対しても、同社はインターネットによる仲介業者であり運輸業者ではないとして、運転手は従業員でないと主張してきた。

 ところが先月、英国最高裁は全員一致で、運転手は独立契約者ではなく、従業員と独立契約者の中間に位置する“ワーカー”である区分して、賃金保障、有給休暇、年金制度などの一定の手当てを義務付けた。
 この英国判決で、ウーバーが諸手当の保障や安定賃金を支給することになれば、影響は他国にも伝わることになるが、今月に入って実際に、スペイン議会が食品配送アプリ企業の運転手を従業員とする法律を成立させた。
 英国最高裁はウーバーが運賃や運行経路を定め、低い乗車率や高いキャンセル率へは罰則を科し、罰則には一方的にアプリ使用を禁止するなど、強い支配力を行使していることを指摘した。かくして、英国ウーバーは7万人以上の運転手にワーカー資格を与え、諸手当の改定に着手すると言明した。ただし、英国には国民健康保険があるため企業健康保険への義務はない。

 他方、米国では、ウーバーやリフトなどの会社が賃金や諸手当を約束することは業務の柔軟性を損なうとして、現在のビジネスモデルを守ることに必死である。しかし、スタンフォード大学のグールド教授(全国労働関係委員会前会長)は「従業員資格とフレックス勤務が両立できないことはない。英国で起きたことは米国の連邦レベルでも提起される可能性がある」と述べる。しかし米国には”ワーカー”に該当する区分はない

 “提案22”成立のあと、ユタ州やマサチューセッツ州など数州でも法改正が進んでいるが、この動きを止めるのは連邦法しかない。しかしウーバーはカナダや欧州でも同様の法改定を目指して動きを強めている。“提案22”によって労働者報酬は最低限とされ、賃金支払いは乗客の送迎、食品配送時間だけに限定されるようになった。或るスーパーでは配送従業員を解雇して、低賃金の外注運転手に切り替えている。

 パンデミックが拡大したとき、多くの運転手が自分たちにセーフティネットが無いことに気付いた。運転の依頼が途絶えたとき、運転手たちはギグ企業が拠出していない連邦政府や州政府へ失業手当の申請を行った。失業手当の試算では、ウーバーとリフトの両社はカリフォルニア州だけで、5年間に4億ドル以上の節約をしたと言われる。

 ウーバーは“提案22”を英国でも実現させたい意向を持つ。英国最高裁の判決では待ち時間にも賃金を支払うことになるが、ウーバー社広報は「柔軟な勤務時間を守りながら、賃金を改善する方法は地域により違う。それはウーバーが決めることではない。」と述べる。

 ギグ企業が今、ベンチャー・キャピタルで数十億ドルの資金を集めながら体制固めを進めているなか、事態はそうしなくてもよい方向に進んでいる。
 米国政界では、バイデン大統領を始めとして、ギグ労働者を支援する声が強まっている。
 また、数百万の米国人が在宅勤務を余儀なくされる中、運転手たちはテイクアウトや食料品の配送に不可欠な存在(エッセンシャル)としての姿を見せている。経済的改善を進める絶好の機会にある。

 以上がニューヨーク・タイムス社説だが、ウーバー社は2009年の創業後、急速な成長を続け、ギグ産業最大の企業として、インターネットを利用してタクシー配車、食品配達、商品配達などの業務を世界900都市で展開している。
 他方、ギグ労働者は短期間の労働を主とし、インターネットを仲介して自分に都合の良いフレックス・タイムで働く労働者を言い、2010年ごろから出現した。彼らは従来、独立契約労働者として扱われてきたが、近年副業の拡大につれてギグ労働者が増大する中、労働組合を中心に一般労働者に認められる労働保護を適用するよう強い要求が出されている。「 2019年のある試算では米国労働者の10-30%がギグ労働を行っていると言われる。」(uschamber.com)

 このように、多くの労働者がギグ経済に携わる中、新たな形の労働者に労働法の適用が広がるのは当然かつ必然だと言えよう。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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