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No.623(2021/4/5)
警察官労働組合を巡る問題

 昨年5月、ミネアポリスで黒人男性、ジョージ・フロイド氏の首を抑えつけて死亡させた警察官の裁判が3月9日から始まったが、高まる警察官労組への批判について、3月4日のロサンジェルス・タイムスは「警察官労働組合は解決すべき課題も多いが、それでも労働組合なのだ」とする社説を掲げた。同紙社説の要旨は以下のとおりである。

 長い間、警察官労働組合は行き過ぎた刑罰廃止や警察の説明責任などの改革を進めるうえで障害になってきた。1990年代のカリフォルニア犯罪厳罰法の誕生には刑務所職員組合による資金支援が行われ、2017年にはロサンジェルス(LA)警察官保護リーグ組合(9,000人)が26年前のロドニー・キング氏(黒人)殺害事件を契機に誕生した警察官処分法を無力化し、昨年のフロイド氏殺害事件で警察監視を強化するはずの法改正案も警察官労働組合により阻止された。また検察側のLA法務官協会組合も幾つかの改革に強い反対運動を展開した。
 改革反対には組合費が使われ、警察労組の方針を支持する政治家への支援、支持しない者への脅迫、反撃に使われた。

 こうした政治献金は自由主義の政治家に難しい問題を投げかける。彼らは行き過ぎた刑罰や警官の暴力に反対し、労働者の団結と権利を主張する労働運動を強く支持する人達である。

 反面、ブラック・ライブズ・マターLA支部の人たちは労働運動からの警察官労組追放と労組資格剥奪キャンペーンを展開し、「警察官労組は白人優位主義を助長し、黒人への暴力を起こしている。警官労組は真の意味での労働組合ではなく、社会正義を標榜する労働運動に位置付けられるものではない。」と主張する。

 答えは難しい。警察は米国社会に存在する人種差別を反映している。率直に言って、民間労組の中にも、人種差別と平等社会を標榜する組合と並んで人種差別的な労働組合が存在する。

 進歩的課題への妨げになる労働組合があれば、それを排除したいと思う者が出る。教育面では、高い信頼と強い主張で知られる教員組合だが、現在は全米各地で学校再開を妨げる存在になっている。労働組合を好き嫌いで選択してはならない。全ての労働者が団体交渉の権利を保有して、権利を主張し、意見を公衆に表明できるのだ。

 注目すべきは最近、一般住民が警察官労組のキャンペーンを拒否していることだ。刑罰強化を狙った昨年のカリフォルニア住民投票20 は住民が拒否した。議員の幾人かも警察労組からの献金を拒絶している。
 警察官労組を解散させるのではなく、政治的に敗北させることが、警察改革と透明性確立への建設的かつ正当な取り組みである。

 以上がLAタイムスの社説だが、昨年7月3日のJILAFメルマガは「アメリカにおける警察官労働組合の問題」と題して2つの記事を紹介した。

 1つはウオールストリート・ジャーナル紙の「警察官労組の労働協約が多くの悪徳警官の処罰を阻んでいる」とする社説で、「警察官の不正行為に対する処分は、多くの場合労働協約に定められた裁定に委ねられる。しかし裁定委員は警察労組が選定することから、判定は警官に有利になりがちだ」として協約上の問題を指摘している。
 2つ目はワシントン・ポストによる「警察官労組への攻撃は労働運動全体を弱体化させる」と題する評論で、「警察官労組への非難が公務員全体に広がる危険性がある。警察官労組の団体交渉権を廃止すべきでない。労働協約では処罰規定を協約から除外する案もある。警察官労組の改革が労働運動全体の団体交渉権を弱体化させないよう、注意しなければならない」と指摘している。

 今回はそれに加えてのLAタイムス社説だが、政府行政・労働者・使用者に加えて、立法、司法にも及ぶ刑事関係労組の幅広い影響を指摘している。
 3月9日から始まった当該警察官の公判に注目が集まっている。過剰暴力はもちろん許されることではないが、治安維持に際し危険に身をさらす警察官の心情にも配慮が必要である。裁判では公共の安全と警官の安全が審議されることになろうが、同時に、事件の背景にある種々の課題についてどのような解釈がなされるのか、注目していきたい。

1 カリフォルニア住民投票20:「2020年の選挙時に警察官労組や小売店チェーンにより提案された住民投票だが、62%の反対で拒否された。内容は$250以上の万引きや車両窃盗への刑罰追加。万引きや不正薬物所持者などのDNA強制登録。重罪リスト項目の追加とそれによる恩赦の制限など、刑罰強化を目的とした。」(Calmatters newslettersから引用)https://calmatters.org/election-2020-guide/proposition-20-crime/

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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