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No.622(2021/4/5)
明らかになった米国失業保険制度の欠陥

 2月11日のニューヨーク・タイムスの社説は「多数の失業者が救済を受けられない」と指摘して、失業保険制度の大幅改定を主張した。要旨は下記のとおりである。

 パンデミックによる失業労働者救済について、連邦政府は失業給付の増額と延長を中心に施策を実施してきたが、多数の失業者が何らの給付も受けられない大きな問題が出てきた。

 1930年代から開始された失業保険制度は、自己責任でなく失職した労働者へのセイフティ・ネットとして機能してきた。しかし今、そこから多数の人々が漏れ出し、ノース・カロライナ州では25%以下しか失業保険が受けられない。全米では1980年の受給者割合44%が2019年には28%に低下との調査があった。

 米国では各州それぞれに異なった失業保険制度があり、改革と相互の比較学習による改善が期待されたが、現在の結果は、企業負担を減らそうとして各州が失業保険料の減額競争を展開、申請手続きも複雑化することになった。こうした州では失業保険支給額そのものが減額されている。
 支給額は原則として前職賃金の50%を想定しているが、これは失業者救済と次の職探しへの動機付けのバランスを保ったものである。しかし、フロリダ、イリノイ、アリゾナなど13州でパンデミック以前の支給額は40%以下に低下していた。ここでは支給期間も標準の26週間から大きく後退、フロリダとノース・カロライナ州では失業率最低期には、最高12週間に短縮された。

 1958年以降の景気後退時には、連邦政府がこうした各州の欠陥を補うため連邦資金を投入してきたが、今回のパンデミックでは過去最大の連邦資金が投入されている。
 昨年春には、米国議会が給付資格の拡大と共に金額の増加、期間延長を承認し、今また、2兆ドルのバイデン経済対策の中で、努力が続けられている。金額も未だ不十分だが、失業給付手続きにも問題が生じている。
 昨年来の大量のレイオフ発生には、最善の対策を立てた各州も苦闘する中で、失業救済に消極的だった各州の混乱は一層悪化した。対策を最小限に止めてきたフロリダ州ではコロナ災禍発生時の失業保険申請者が給付を受けたのは5月末という事態も起きた。

 パンデミック発生から約1年、失業は高止まりしたままである。パウエル連邦準備理事会(FRB)議長は失業率が10%に上ると発言、政府発表(1月:6.3%)とは違う高い失業率を示唆した。
 1月の調査では全米で失業者の24%しか失業保険を受けられないとされる。ジョージア州では申請の処理遅れが18万件、カリフォルニア州のある議員は3,000件の問い合わせを抱えているという。テキサス州ではある女性が6時間の電話待ちでも回答がなく、なす術のない状況が伝えられる。

 バイデン政権はトランプ政策を改善すべく取り組んでおり、就任2日後には各州との協同による”失業保険給付チーム”を立ち上げた。また労働省に対してはコロナ感染を怖れて復職を拒否する失業者を含めて、給付対象拡大への指針策定を指示した。民主党上院議員も、申請処理の迅速化を図る労働省への$5億予算を立案したが、ニュージャージー州では40年来の旧式な給付制度改定に取り組むプログラマーが見つからない状況が続いた。

 しかし状況はこうした奨励策だけでは済まされない、連邦政府が直接介入する必要にある。失業保険制度の欠陥は米国の連邦制度に根ざすものだ。
 当時の議会は失業保険制度 と社会保障制度 を姉妹法案として立案し、両法案とも課税上限額が$3,000と決められた。 以来、労使負担折半の社会保障保険税の上限額は2021年に$142,000に引き上げられたが、企業負担の失業保険税は連邦保険税の課税上限が$7,000に止まり、州失業保険税については権限が各州に委譲されて、保守勢力の強い州ほど失業保険税が低額になっている。

 解決策としては強力な全国基準の確立が必要である。パンデミック終了時には、連邦政府は緊急援助を停止しつつ、各州の失業保険充実と対象者拡大への資金を充実させなければならない。
 多くの州におけるパンデミック以前の失業保険対策は不条理なほどに制約的であった。自営労働者、独立労働者には適用不可、パート・タイムも無資格、失業フルタイム労働者の次職探しはフルタイムでパートでは失業保険適用停止、任意退職は適用外で使用者都合であることが必要、家族の面倒を見るための退職者には失業給付なしであった。

 昨年、議会は、連邦資金により暫定的に失業給付資格を拡大した。民主党によるこの法案は今年夏まで有効だが、暫定に止めることなく、アメリカ労働者の現実生活に適合する失業保険とする長期的視点が求められる。

 以上がニューヨーク・タイムスの社説だが、日本の実情に比べても参考になる点が多い。特に全米で失業保険受給者が24%に低下との調査は、労働者を守るべき制度が4人中の1人しかカバー出来ないことを示している。労働形態の多様化で多くの労働者が労働者保護の対象から外れている状況にあり、対策を立てることが急務である。
 また、保守色の強い米国各州では企業誘致を優先して、失業労働者の保護に消極的な姿が指摘されたが、こうした州では最低賃金も極めて低額に抑えられている(既報)ことにも注目したい。

1 米国の失業保険制度:米国の失業保険は使用者と労働者が折半する日本と異なり、全額が使用者負担である。掛け金は失業保険税とされ、連邦、州政府双方が徴収する。連邦税は課税上限$7,000の6.0%だが、5.4%は州失業税を期限内納入することで相殺される。州失業保険税の課税上限額は州ごとに異なり、税率も解雇経験率などで企業ごとに異なる。失業給付は原則として州失業保険税から賄われるが、連邦保険税は景気後退時などの延長給付の連邦負担部分、失業保険給付不能となった州への融資などに使用される。(JILPT)

2 社会保障制度:日本の国民年金に相当するもので、社会保障税の税率は給与の12.4%、税負担は被用者と事業主の折半。最低加入期間10年。老齢年金の支給開始年齢は67歳。(厚生労働省資料参考)

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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