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No.613(2020/12/4)
民主党多数の米国上院議会への期待と労働組合の計画

 10月21日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙の社説は「大統領選挙がバイデン有利に展開する中で、彼の政策実現のカギを握るのが上院議会である。民主党が上院多数を占めることになると、1947年の画期的なタフト・ハートレー法 を覆す労働組合優位の急激な変化が起きる。これを阻止するため、現政権支持の投票が必須である」と述べている。共和党、使用者側の主張を重視する同紙社説の要旨は以下のとおりである。

 民主党多数となる上院議会で先ず成立するのは2月に下院議会を通過した「組織化の権利擁護法」である。この法案は各州で現在実施されている「労働の権利法」を無効にすることになる。組合加入と組合費支払いを個人の自由意志とする「労働の権利法」は現在27州で承認され、自動車など多くの企業に柔軟な労働政策を提供してきたが、これが出来なくなり、労働者は組合加入が義務付けられることになる。
 次には独立契約労働者の定義が変更される。IT労働者やフリーランサー、ウーバー運転手などが一般労働者と規定されて労働組合の枠にはめられ、彼らが担うギグ経済 の成長性と柔軟性が破壊される。企業が持つ電子メールアドレスや携帯電話番号といった個人情報が労働組合にも提供され、組合の干渉を受けることになる。

 さらには、労働組合選挙の公示から選挙までの期間が短縮され、企業による反論、啓蒙の機会が失われる。また、下請け業者やフランチャイズ企業については、親会社に共同経営者としての責任を負わせて労組の力が拡大されるが、これらの組合ファースト 基準は今、労働省や全国労働関係委員会(NLRB)が規制しているところである。
また労組優遇の法案には、仲裁裁定を制限して労働組合の集団訴訟に道を開き、ストライキ中の代替労働者の雇用を禁止、ストライキ会社と取引する企業への第2次ストライキの容認、違反企業への重罰がある。

 こうした法案は個人による自由な労働組合の選択を制限し、個人と民間企業に対する国家権力による労働組合の押し付けを図るものになる。また無記名投票ではなく多数署名獲得による労組承認という「カード・チェック」 も実現し、労組結成が容易になる。
現在30州において実施されている地方自治体における独占労働協約、つまり、賃金、諸手当、労働条件の決定に当たり、労働組合を唯一の代表とする規定が50州全部に広げられることにもなる。
 在宅介護やコミュニティ・ベースの介護労働者数十万人の組織化も計画され、バイデン氏は今後10年間に$7,750万を投じて新規雇用を創出するとしている。これら労働者については2014年に最高裁が自由意志による組合費支払、昨年にはトランプ政権が医療保険料集金の際の組合手数料徴収を禁じたが、バイデン氏はこれらを覆して、労働組合の組織化を容易にしようとしている。

 タフト・ハートレー法は行き過ぎた労働組合優遇の1935年のワグナー法 を是正し、労使関係のバランスを回復したが、選挙のたびに共和、民主の力関係で変遷を繰り返してきた。
 この間、上院議会のフィルバスター規約により急激な変更は抑制されてきたが、フィルバスター規約廃止を言う民主党が上院多数となれば、過去85年間にも増して労働組合が個人や企業より優位に立つことになる。

 以上がWSJ社説の要旨だが、共和党政権崩壊の危機感をあらわにしている。選挙の結果、民主党勝利となれば労働政策に大きな変化が起きることは確かであり、労働組合の躍進が予測される。
 しかし選挙結果がどうあれ、ここで筆者が指摘したいのは、政権が変わるたびに大きく変更される米国の労働政策の異常さ、労使関係が当事者間ではなく政治情勢に大きく影響される不健全な姿である。
 そこには話し合いと相互理解による労使関係は無く、労働の法制度があるのみである。数十年の歴史を重ねながら、時の法律を盾に、訴訟、ストライキによる戦闘的な交渉を重ね、労使協議が根付かない米国の労働運動、労使関係のバランスを回復したというタフト・ハートレー法実施の後も、弱体化を続けた労働組合に対して続けられた共和党と使用者側による飽くなき敵対的な労組潰しなど、米国労使間における対立の根は深い。
 WSJなどの大手メディアが労使関係健全化と安定化に向けて、世論醸成に大きな役割を果たすことを強く期待したい。

 11月の選挙において、上院議会は合計100議席のうち共和党は50、民主党は48議席を確保した。残り2議席は来年1月5日に行われるジョージア州の決選投票で、過半数に満たなかった両党候補が争うことになる。上院で両党同数となれば上院議長を務めるのはハリス次期副大統領であり、過半数を民主党が占めることになり、労働法に大きな変化が起きる。

1 タフト・ハートレー法:
 1947年制定の労使関係調整法の通称で提案者の共和党タフト上院議員、下院労働委員会委員長のハートレー議員の名前をとっている。1935年のワグナー法による労働組合活動を行き過ぎと考えた共和党が、クローズド・ショップ制の禁止、ユニオン・ショップ制の大幅制限、ストライキの制限(政治スト、山猫ストの禁止、公共部門のスト禁止ないし制限)などを盛り込んで成立させた。
2 ギグ経済:
 企業に雇用されることなく、インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方による経済を言う。ウーバー・タクシーやウーバー・イーツの宅配運転手、料理や掃除などの家事サービス、アプリの開発など職業は多岐にわたるが、こうした労働者を組織し、仕事の環境を整えるオンラインによる仲介業者が必要となる。労働法の面では、これら労働者が一般労働者なのか、独立契約者なのかが争われている。
3 組合ファースト:
 トランプ大統領の言うアメリカ・ファーストになぞらえた組合の権利優先主義の表現
4 カード・チェック:
 労働組合結成には職場の労働者の過半数署名による賛成を使用者が認めて成立する場合と、使用者が認めない場合は無記名投票による労働組合承認選挙が行われる。いずれの場合もワグナー法に定められた全国労働関係員会(NLRB)が管轄にあたる。カード・チェックとは前者による労働組合結成を指す。また、労働組合は30%の署名を以って無記名投票による労組承認選挙の開催をNLRBに請求できる。問題になるのは、労組選挙までの期間に、しばしば、使用者による不当労働行為を含んだ労組潰しが行われることである。
5 ワグナー法:
 1935年制定の労働関係法で提案者は民主党ワグナー上院議員の名前をとっている。労働者の団結権、団体交渉権を明確に定め、労使の交渉力の平等化を図るとともに産業平和を確立しつつ、不当労働行為を厳しく監視して、労働者の生活安定による経済復興を目指した。F・ルーズベルト大統領によるニューディール経済政策を推進するため、労働者の購買力増強を意図した労働法であり、同法により労働組合運動は飛躍的に発展した。
発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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