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No.607(2020/9/14)
アメリカでのコロナ感染からの学校再開を巡る教員組合の動きと批判

 コロナウイルス感染者が600万人を超えて拡大する米国で、オンライン授業を余儀なくされている学校の再開が模索されているが、その中での教員組合の動きについて8月3日のウオールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「コロナを政治利用した教員組合のゆすり行為」と題して、教員組合批判の社説を掲げた。要旨は以下の通りである。

 先週、全米教員連合組合(AFT)のランディ・ワインガーテン会長は「学校区当局によるコロナ対策が不十分だと思われる場合は安全を守るためのストライキを容認する」と言明した。また本日、一連の教員組合連合グループが学校再開の条件として、幾つかの要求を掲げて”全国抵抗の日”を呼びかけた。その要求項目は、

  1. (1)コミュニティーと各家庭を支援するための家賃とローン返済免除、立ち退きと抵当処分の一時停止、就業不能者や失業者、その他の緊急な社会的ニーズへの直接現金給付
  2. (2)新規チャータースクール1や教育バウチャー2、標準業績評価制度の一時停止
  3. (3)億万長者やウオール・ストリートへの課税による学校再開への大量連邦資金の投入

 この言葉は政治的ゆすり行為である。教員組合は願望リストの実現に向けての最終通告としてストライキの脅しをかけ、学校再開を待つ子供たちを人質にしている。

 また、チャータースクールの排除を図る教員組合は政治関係を利用して、メリーランド州の保健所長に10月1日までの私立学校の閉校継続を指令させた。この指令は疾病管理予防センター(CDC)が公衆衛生対策の一段階として学校再開の推奨方針を打ち出し、学校が方針に飛びついた最中の出来事であった。(7月23日CNN: CDCは児童によるコロナ感染リスクは低いとして、低所得や少数民族児童への教育の重要性を念頭に学校の再開を推奨した。)直後に、メリーランド州知事がこの所長指令を覆し、学校再開は一律でなく個別判断によると訂正、私立学校・宗教学校の学校再開も一般ガイドラインに沿って決定するとして、常識的な判断を示した。

 全国的には、教員組合がマサチューセッツ州やシカゴにおいて要求貫徹までの学校再開に反対していが、多くの州では日毎に数百の学校再開、対面授業再開が発表されている。
 資金面では、公立学校の閉校には心配ないが、授業料と献金に依存する私立学校・宗教学校にはその余裕がない。コロナのため、107の私立学校・宗教学校が永久閉鎖を余儀なくされた。

 幸いにも、国民が教員組合の自己中心主義に気づき始めている。教員組合は政治左翼と連携して、要求を通すために子供を人質に、両親や一般国民を脅迫する独占権力を振るっている。正しい政治決定は教育を何処に任せるかを子供の両親に委ね、そこに資金支援することだ。両親が私立学校を選択、ないし新たな形の在宅教育を望むなら、その権利を持つべきだ。政治権力がアメリカの子供の教育に拒否権を持ってはならない。

 以上がWSJの社説要旨である。チャータースクールの現在の学校数は約7,000校、全体の7%を占めているが、多くが非組合で公立学校とは異なる教育手法を持つことから、教員組合の反感が強い。それぞれの社会的役割についての共通理解と一層の制度整備が望まれるところである。

 ここで重要な点はワインガーテン会長の発言にある。7月28日のワシントン・ポスト紙は「教員組合が安全対策不備の強制的学校再開には”安全ストライキ”を容認」とする記事で、その背景を次のように紹介している。

 全米教員連合(AFT)執行委員会は、全米各地の学校区当局が安全な学校再開には多額の資金援助が必要と要請しているのに対し、トランプ大統領とディボス教育長官が現状のままに全面的な学校再開を迫っている中、安全を守るための傘下組合によるストライキを承認した。
 会長は執行委員会を代表して「トランプの新型コロナウイルス対策は無秩序かつ破滅的であり、教育長官への信頼もゼロである。学校区当局が生徒と教師の安全を守れないなら、我々が抗議、交渉、苦情、訴訟など全ての手段を行使し、最終的には”安全ストライキ”で皆を守らねばならない」と訴えた。

 米国議会は3月に2兆ドルのコロナ対策費用の中で学校対策に135億ドルを承認、数日前には上院が700億ドルを承認したが、各州の学校当局責任者評議会は安全な学校再開には1,580億~2,446億が必要と要請、AFT決議では4,000億が必要と試算している。
 さらにワインガーテン会長は「感染が世界最悪のフロリダ州で全国大会中止を余儀なくされた共和党だが、そのフロリダ州でトランプ大統領が学校再開を迫っているのは完全な偽善だ」と糾弾した。(以上ワシントン・ポスト記事引用)

 上記のWSJ社説が指摘する教員組合連合グループの諸要求には教育を超えて過剰と思える部分もあるが、失政を棚上げして大統領再選を目的に、経済封鎖解除と学校再開を強行するトランプ政策を正すため、敢えて強硬姿勢を取ったと理解すべきかもしれない。

 また、今回のWSJ社説が「教員組合のゆすり行為」と言う極めて批判的な標題を掲げたが、これも現在の米国の敵対的な労使関係を表す一面である。使用者側、共和党の立場を多く代弁するWSJが彼らの労働組合嫌いの激しさを表現している言葉とも言える。比較的穏健な労使関係にある日本の労働関係者には違和感があるかもしれない。

  1. 1 低学力や特別才能児童など、従来の公立学校では対応できない初等・中等の児童教育を目指す公費による民営公立学校。アメリカで1974年に創始され、戦闘的で知られたAFTシャンカー元会長の尽力などで普及した。
  2. 2 教育バウチャーとは自治体が一定の教育水準に満たない公立学校に通う生徒の親に希望する学校の授業料に相当する利用券を支給する制度。(研究社リーダーズ英和辞典)
発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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