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No.603(2020/7/3)
(アメリカにおける)警察官労働組合の問題

 6月10日のウォールストリート・ジャーナル紙は標題の社説を掲げ「警察官労組の労働協約が多くの悪徳警官の処罰を阻んでいる」と指摘した。要旨は次のとおりである。

 2011年、各州の共和党知事が公務員の団体協約を改定したとき、民主党による大きな抵抗があったが、今や民主党が「公務員の労働協約が警察改革を阻害している」と主張している。本気なのだろうか。

 黒人男性のジョージ・フロイド氏の死亡事件でミネアポリス市長は「警察官労組の団体協約と裁定協定により、今回の事件前にはこの警察官の処罰が出来なかった。警察官労組という巨象と取り組まねば文化は変わらない」と釈明した。
ミネアポリス警察が2012年以降受けた苦情は2,600件、処罰は僅か12件で、最も厳しい処罰も40時間の職務停止であった。
その後発足した警察改革チームは「団体協約により警官の不正行為が明記されない。結果、沈黙が公式方針となった」と述べている。

 40程度の州に警察官労組の団体協約があるが、2017年に178件の労働協約を対象にしたある調査では「組織的な警察官の不正行為の是正が為されない原因の一つとして、公務員労働法に問題があり、法律が賃金、労働時間、雇用条件に直接影響を及ぼす事項についての団体交渉を認めていることがある」と述べ、「半数の団体協約が特定期間後に懲罰記録の削除を定めており、警官の不正行為が慣習的かどうかの判断ができない」と述べている。

 また、協約の3分の2が「懲罰処分の際には裁定に委ねる」と定めている。しかも、警察の場合は警察官労組が裁定委員を選定する。加えて、平均4回までのアピールが認められており、これにより2016年から2017年の間に不正行為で解雇の警官の4分の1が主として裁定で復職した。オークランドでは遺族に65万ドルが支払われ当該警官が解雇されたケースがあるが、数年後には裁定による復職と解雇中の給与が支払われた例もある。

 さらに、責任の不明瞭さも公務員団体協約の問題である。民間の団体協約は労使の利害対立が明確だが、公務員は労組選出の政治家を相手に交渉を行う。こうした協約交渉では懲罰から逃れられてしまう。
民主党が格好だけでなく、真の警察改革を望むなら、団体協約問題に取り組まねばならない。公務員労組の支持を失う覚悟で社会正義を追及する気概があるのか、見極めたい。(要旨は以上)

 他方、警察官の暴力事件に関連して警察官労組に激しい批判が起きている状況について、6月11日のワシントン・ポストはアリゾナ大学、マッカリー教授による「警察官労組への攻撃は労働運動全体を弱体化させる」とする評論を掲載した。要旨は次の通りである。

 現在、全米での警察非難の中で警察予算の削減が言われ、警察官労組の権限縮小が叫ばれている。警察官労組に大きな問題があるのは明らかであるが、ここで注意しなければならないのは、この動きが進むと真に必要な改革が阻害されるということだ。

 共和党は法と秩序を主要方針としながら、反労働組合を貫いて各州において労働組合の弱体化を図っているが、それも警察と消防には及んでいない。最悪として知られるウィスコンシン州の例でも、公務員交渉権限が大幅に制限されて教員組合が麻痺状態に陥ったが、警察と消防は例外とされた。しかし今、抗議活動の高まりから共和・民主両党が手を組んで警察官労組を批判し、特に共和党は警察官労組非難を公務員全体の交渉権削減の好機と捉えているように見える。

 警察官労組の団体交渉権は廃止でなく、改革の方向があり、賛同の多いものとして処罰規定を労働協約から除外する提案もある。警察官の懲罰処分は一般市民と比較して非常に寛容であり、これが警察官の暴力を助長しているともいわれる。
警察官労組の団体交渉権を廃止することになると、これは公務員全体に及ぶことになる。公共事業を担う教員、看護師、バス運転手、衛生関係労働者など多くの労働者には抑圧的な使用者から自分を守り、安全な職場を確保するための団体交渉権が欠かせない。警察官労組の改革が労働運動全体の団体交渉権を弱体化させないよう、時代が求める幅広い改革から視野を狭めさせないよう、注意しなければならない。(要旨は以上)

 警察官の過剰暴力は許されないが、危険に身をさらす警察官の心情にも配慮が必要である。労働協約が公共の安全と警官の安全をどのように両立させるのか、複雑な処罰手続きから悪徳警官への上司対応を無力化させないためには、上司による恣意的処罰や解雇をどう回避するのか、緊急に実施すべきものは先行させながらも、慎重な審議が必要である。

 さらに翻って日本の状況を見てみると、日本の警察官に労働組合はない。日本では警察職員、消防職員、海上保安庁職員、自衛隊員、刑務所職員には団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)いう基本的労働三権が認められていない。警察で上司が絶対の権限を振るう場面も多く見聞きするが、迫害に苦しむ警察官の存在を想像させる。ILO(国際労働機関)条約にある警察官の団結権がない状況は米国とは逆の問題を抱えていることになる。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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