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No.595(2020/5/15)
コロナウイルスと戦う最前線の労働者に労働組合が必要

 4月23日のワシントン・ポストはミネソタ大学 W.P.ジョーンズ教授による論説を掲げ、最前線の労働者への労働組合の必要性を力説している。要旨は以下のとおりである。

 コロナウイルス・パンデミックの中で最前線で働く清掃労働者、バスなどの運輸労働者、医療関係、食品雑貨、配達などの労働者が身体の危険を訴えている。仕事を続けながら、労働者、同僚、顧客の健康と安全を確保するために、最前線の労働者を守らねばならない。しかし、残念ながら労働法は強制力を欠き、苦情には報復が心配される状況であり、明らかに労働組合が必要性である。こんな時だからこそ、労働法が誕生した当時を振り返ってみたい。

 1935年、F・ルーズベルト大統領は全国労働関係法(NLRA)を成立させた。それ以前の経営優遇の法律から労働者の労組結成と団体交渉を奨励、賃金労働条件改善にストライキも認めた法律であり、過剰生産と賃金低下の悪循環を断ち切るために労働者の力を借りようとした。世論にも仕事に労働者の声を反映することが公共の利益にも適うとする声が強まった。NLRAに力を得た労働組合は消費を復活させ、経済格差を縮小し、中産階級を増加させた。

 しかしNLRAから除かれた労働者には農村や家内営業の労働者、公務員があった。当時の性差別、人種差別の風潮の中で「これらの女性、アフリカ系、移民労働者に力を与えることは安価で安心な食品や清掃用品などの日用品確保に心配が生じる」とされたのである。また、公務員の労組結成については「一般国民と政府に対する公務員の特別な関係と責務」が団体交渉やストライキ権を阻むことになった。

 1960年と1970年代になると労働組合の強い州において、農業及び公務員の労組結成、団体交渉権の前進を見るが、それでも州法は連邦法に比べて交渉とスト権の制限が厳しかった。
その後、特に南部と西部地方でストライキや労組の政治活動が制約され、労働の権利法(組合費の納入を従業員の任意とする法律)が成立して労働組合の成長が止まり、小売りや食品という土壌の無かった分野では労組結成が阻まれた。
労働組合が大きく成長したのは1930年代~40年代だが、それ以降、労働組合の衰退が始まった。多くの企業が南部や西部の労働の権利法制定の州へと移動したこと、製造業や鉱山業のオートメーションとグローバリゼーションの進展に伴う海外移転とロボットの使用拡大が起きた。

 この時期、労働組合はNLRA改悪は阻止できたものの、労働関係委員会(NLRB)の予算縮小や弱体化が進んだ。労組選挙の決定は数か月も延期、不当労働行為の審査に数年を要するようになり、労組選挙の際の不当解雇にも賃金は支払うものの罰金は無し、労組結成を回避するには違法行為も良しとする風潮が生まれた。

 法律が不備のため、最前線の労働者の発言は警戒的で短期に留まる。パンデミックで不衛生な労働環境に抗議する労働者を解雇する使用者の法律違反を証明できても、罰則は少ない。労働組合の無い自営業、農業ではなおさらだ。彼らの多くが不法移民であり、出稼ぎ労働者であり、交渉能力もないため、危険な仕事をすぐに退職する。
州法の中でも公共輸送、清掃事業、医療労働者には労組結成、防護設備や安全手段への交渉権を認めているものが多いが、ストライキとなると厳しい罰金や解雇、逮捕がある。

 今回、カリフォルニアでは医療用マスクを要求した看護師が停職処分を受け、充分な保護器具や設備もなく働かされたが、労働組合を結成し団体交渉権を持つことができれば、健康か収入かの選択をしなくても済む。6,000人がコロナに罹病し41人が死亡した当時のニューヨークでも、バスの運転手にはマスクや安全確保の手段が講じられなかった。
他方では、クルーズ船乗客の診療にあたった組合所属の救急医療技術者には労使交渉によって防護手段と医療保険が整備され、安心して医療にあたるケースもあるが、多くの最前線の労働者には未だそれが無い。

 パンデミック発生前だったが、米国下院は労組結成や労使紛争時の労働者保護法を議会通過させ、全国公務員への団体交渉基準法案を提出したが、上院で承認される可能性は低い。トランプ政権は自宅介護労働者やギグワーカー(インターネットで単発の仕事をする労働者)、及びフランチャイズ労働者への団体交渉権を拒否しており、NLRAの苦情処理や労働組合選挙も引き延ばされている。コロナ対策で政府支援を受ける企業は労働組合に病気休暇と労働協約の順守を約束しているが、大多数の最前線の労働者が働く職場への対策はない。

 労働法の強化と全部門への施行なしには労働者が自分の健康と職場安全を守ることは出来ない。しかし歴史は示す。労働者に力を与えることでCOVID を撲滅し、その経済危機に対処できる。リーマンショック時と同じように、今や世論が「労働者に発言力を」求めている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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