バックナンバー

No.588(2020/4/14)
なぜアメリカは大量失業の方向を選択するのか?

 3月26日のニューヨーク・タイムスは標題の社説を掲げ「新型コロナウイルスの危機に当たり、欧州諸国は雇用の確保に資金を注入しているが、悲しいことに米国は失業給付の方向にある」と指摘して、米国の政策転換を迫っている。要旨は以下のとおりである。

 先週の失業給付申請が近代史に類を見ない(前週から10倍の)300万人を超えたが、政界の反応は冷静で、不幸だが止むを得ないとし、トランプ大統領も「米国のだれの責任でもない」と述べつつ、対策として失業給付や一般市民、企業向けに2兆ドル(その後2.2兆ドルへ増額、約240兆円)の巨額を投入することとした。

 しかしここで指摘したいのは、雇用の大量崩壊が回避可能だったことだ。しかし政府は致命的失策を侵した。失業防止のために第一に為すべきだったのは、アジア諸国が実施したような検査と特定検疫制度による新型コロナウイルスの感染の抑え込みだった。またその失敗が明らかになった後でも、議会は労働者の雇用維持を優先するための企業支援ができたはずである。失業は数百万労働者の生活だけでなく経済と一般社会に深く、長い傷を残す。特にその傷は新型コロナウイルスの問題以前に、不平等な経済成長の被害を受けた底辺層の人たちに強く残る。

 これに対し多くの欧州諸国では、コロナ対策に同様に失敗し、大規模な経済部門の閉鎖に追い込まれながらも、雇用を守る選択をしている。デンマークでは給与の90%までを政府が企業に保障し、オランダでも20%の売り上げ減少の企業に給与の90%を政府が保障、英国は必要企業について給与の80%までを政府が保障する等となっている。中には働かない労働者分だけを企業に保障する国もあるが、ドイツではパート労働者をも含めて235万人を保障する。いずれも、古い企業を含めて最大限、労働者と企業を守ろうとするものである。
 デンマークの雇用相はこの点について「我々は経済を凍結しようとしているが、メイン・ストリートは出来るだけ保全しようとしているのだ」と述べている。

 仕事を守ることは単に金銭に止まらない重要性を持つ。労働報酬には独立や自主性、自己目的という意義があるが、失業給付にはそれがない。米国の失業者は給与に加えて医療保険も失うが、次に新たな仕事を見つけたとしても失業によるダメージは給与、健康、更には子供の将来にも及び、失業が長ければその悪影響も大きい。

 米国企業は長年にわたって不況時のレイオフ制度を維持するために闘ってきた。経済学者の中にもそれを擁護して、資源の適正再配分と弱小企業の淘汰に役立つと主張するものが存在する。この疑わしい論理も米国の経済成長が欧州を凌駕する中で、解雇が是認されてきた。しかしこれは多分に投資家を利するものであった。欧州モデルは労働者を利するもので、賃金の上昇率は米国よりも高い。

 また、今回の経済危機は自由主義市場論者が言う、いわゆる”周期的な創造破壊”ではない。これは公衆の健康危機なのだ。米国は病気であり休養が必要だ。大量失業によるある種の変化によって経済が改善するとは思われない。現在の経済収縮は住宅の過剰供給やウォルストリートの過剰金融によるものではない。それはウィルスによるものであり、労使の絆を強めておけば、その後の経済回復を早めることができる。熟練労働者や経験労働者を継続雇用することで、求人・求職の苦労をしなくて済む。

 雇用の維持については、今回の政府援助でも小企業向け雇用維持奨励金が盛られており、解雇や賃下げを回避した小企業に3,670億ドルを貸付としているが、専門家によれば、その規模は必要資金の3分の1以下だといわれる。また政府は今回の失業労働者に対し、従来給付に加えて週600ドルの追加手当を支給する。

 しかし、政府が雇用の確保に力を入れれば、事態はさらに良くなるのだが。

 以上がニューヨーク・タイムスの社説だが、失業保障と雇用保障政策の違いを指摘しつつ、米国と欧州を比較、労使の絆を強めることの重要性を述べている点に注目したい。
( )は訳者補注

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.