バックナンバー

No.583(2020/3/2)
労働組合への大きな贈賄の日

 2月9日のウオールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「下院議会が過半数署名による労働組合結成を承認する新労働法案を通過させた。労働組合への大きな贈賄だ」と社説で伝えた。

 その要旨は次のとおりである。

 10年前、民主党は上院議会が60名の絶対多数を占めていた時も過半数署名による労働組合結成を認めず、公式投票による方法を選んだが、今回、下院議会は224対194で1935年のワグナー法以来となる労働組合優遇の大幅改定を承認した。

 この新労働法案は団結権保護法(PRO:the Protecting the Right to Organize ACT)と呼ばれ、労組結成時に使用者は労働者の個人情報を労働組合に提供すること、申請から労組結成投票実施への日時も短縮されることが定められ、使用者の労組反対活動は制約され、労働者は長年の投票の権利を捨てることになる。また、労組結成投票時に使用者の不当介入があったとの申し立てがある場合、現行法では全国労働関係員会(NLRB)は再投票を命じるが、新労働法では多数署名に基づき労組承認を命じることになり、使用者ないし労働者は連邦裁判所に上訴できない。

 労働組合の権限を制限した1947年のタフト・ハートレー法では、「労働権法」(労組加入と組合費納入を従業員自由意志とする)のある各州では労組非加入が認められたが、新法案はそれも認めず、組合費支払いは強制となる。
 団結権保護法また、フランチャイズ・チェーンのような本社と契約店について、フランチャイズ店労働者への本社の間接責任を認めることになるが、この負担は各フランチャイズ店当たり年間14万2千ドルに上る(アメリカ国際フランチャイズ協会調べ)という。

 使用者にはストライキの際の代替労働者が認められず、使用者の交渉力は大きく減退する。交渉行き詰まりの際は強制裁定となる。さらに法案は”労使裁定協定”(労使紛争時には訴訟でなく裁定によるとする協定)を禁じることから、労働者が集団訴訟を起こすことになる。また、オバマ時代の”説得者ルール”(労組結成に関して企業が外部に依頼したコンサルタントなどの情報開示義務)を復活させるが、このルールはトランプ政権成立直後に、連邦裁が使用者の言論の自由を阻害するとして廃止したものである。

 また、多くの独立契約者(*1)についての従業員資格を認め、残業代や食事休憩、労災補償や失業手当などを義務化した。同様の労働法がカリフォルニア州で実施されているが、業界に不安が広がり、ウーバー(*2)で配車された車の利用料金が上昇し、配車までの待ち時間が増えたと報告している。ニュース解説メディアのVOX Mediaでは200人を解雇しなければならなくなり、代替えできたのはわずか20名だという。

 他方、アメリカ労働総同盟・産別組合会議(AFL−CIO)のトラムカ会長は下院議会の票決に当たり「新労働法に反対し、遅延行為や修正を試みる議員は労働組合に対し1ドルの金銭、1軒の戸別訪問たりとも依頼しないで欲しい」と言明した。

 この団結権保護法が今年上院を通過する可能性はない。しかし11月の選挙で民主党が勝利すれば法律が成立する。

 以上がWSJの社説だが、11月には大統領選挙と合わせて、上院議員の3分の1、下院議員全員の選挙が行われる。上院はいま共和党63名、民主党57名の勢力にあるが、民主党が勝利して新労働法が正式に成立すると、全米企業、連邦、各州政府の労使関係が大きく変わる。WSJが指摘するように、団結権保護法案は選挙を控えて民主党が労働組合に提供した大きな賄賂ともいえる。米国の労使関係を理解するには企業内だけでなく、政治の動きに強く影響される労働法、日常的にはNLRB判決による企業への影響に注目することが不可欠である。

(註)「労働権法」、「労使裁定協定」、「説得者ルール」の括弧内は筆者の註釈である。

  1. *1 独立契約者:英語では、Independent Contractor。個人請負、独立業務請負人、個人事業主、フリーエージェント等とも呼ばれる。独立契約者は、従来の被用者とは異なり、組織から独立し、顧客の獲得や仕事の進め方等を個人の価値基準で決定する、「雇われない働き方」をする。
    引用:https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2006_8/america_01.html
  2. *2 ウーバー(Uber):ウーバー・テクノロジーズ社(Uber Technoiogies Inc)が構築し運営する、配車アプリおよび配車ウェブサイトにより、自家用車を保有し、それを活用して収入を得たい人と、タクシーより安く車で移動したい顧客のニーズを結び付けるシステムをいう。
国際労働財団(JILAF)メールマガジン読者のみなさまへ
〜メールマガジン「満足度アンケート」へのご協力のお願い〜

 いつも当財団メールマガジンをご愛読いただき、ありがとうございます。
 JILAFメールマガジンは2009年9月の配信開始から、11年目を迎えました。この間、海外の労働関係情報を中心とした日本語記事を約580件、日本の労働関係情報を中心とした英語版を約300件配信してまいりました。
 この度JILAF日本語メールマガジン読者のみなさまを対象に、「満足度アンケート」調査を実施させていただき、今後の事業改善に反映させてまいります。
 ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

調査実施期間:2020年2月10日(月)〜3月7日(金)

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.