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No.580(2020/2/14)
EUに最低賃金平準化の提案

 1月15日のウオールストリート・ジャーナル(WSJ)は欧州連合(EU)委員会が提案したEU加盟国の最低賃金平準化案と取り巻く経済環境を紹介しながら、これを批評する社説を掲載した。要旨は以下のとおりである。

 提案はEUの加盟各国別に最低賃金を定めるものだが、基準はその国の中位賃金の60%とされる。EU委員会による提案の動機は「EUは加盟国の一般国民に何が出来るのか」との疑念に応えるものと言われる。現行の最低賃金の適用を受ける人は国民の10%程度に過ぎないが、それでも使用者には大きな負担となる。現在EU28か国(イギリスのEU離脱:Brexit前)中、法律や全国協定により中位賃金の60%以上の最低賃金を定めているのは僅か6か国しかない。ドイツにしても月額最低賃金の1,600ドルは中位賃金の50%以下、スペインに至っては月額1,050ユーロは40%に過ぎない。

 EU本部はEU経済が強いと主張するが、実態は慢性不況にあり、この賃金負担は使用者に重い。昨年11月の失業率は米国の3.5%に対し欧州は6.3%、スペインは最低賃金が低いにもかかわらず失業率は14.4%である。25歳以下の若者の失業率はさらに悪く、11月の米国6.4%に対してEUは14.3%であり、最低賃金の上昇は若者の失業に拍車をかける。

 EU委員会の提案は未だ初期段階にあり結論には数か月、数年を要する。最低賃金引き上げは低所得層への恩恵だけでなく、全労働者に影響を与える。しかし、賃上げのためには企業投資を刺激し生産性を上昇させる税制改革と法の整備が必要である。経済への信頼性を高めるために、EUはここに重点を置いて欲しい。これがフォン・デア・ライエンEU新委員長への期待である。

 以上がWSJの社説だが、賃上げには企業の成長が不可欠との主張に同感する。使用者側に立つ同紙は常にこうした主張を展開してきた。しかし過去10数年、米国企業が空前の収益を上げながら、連邦最低賃金は2009年制定の時給7.25に抑えられていた間、同紙は多くの場合、賃上げは特に中小企業の経営を圧迫するとしてこれに疑問を呈し、また経済格差の拡大をも黙止してきた。2012年にニューヨークのマクドナルド店の1日ストをきっかけに始まった最低賃金15ドルへの運動が強まる中、公正な分配への配慮も忘れないで欲しいと期待する。

 分配の在り方については「全員平等」「現在の成果への貢献度」「次の成長を招来できる分配」など種々の考え方があり、その国や社会、企業によっても状況が異なる。この点について東京大学の盛山和夫名誉教授はその著書で、経済格差の問題を指摘しつつ、分配の規範として、1)将来の生産性を効率的に高め、2)貧困層の生活水準を引き上げ、3)より平等な分配とすること、を示唆している。社会における分配に単純なルールはない。労働者、使用者、資本家など、幅広く国民全体の相互理解が形成されねばならない。企業においては、そのための労使関係と労使協議が重要視される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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