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No.575(2020/1/15)
チームスターズ、ジッミー・ホッファ元会長から学ぶべきもの

 11月29日のワシントン・ポスト紙は、34年前にマフィアに殺害されたとされる全米トラック運転手組合、通称チームスターズ(International Brotherhood of Teamsters:IBT)の、ジミー・ホッファ元会長について「ホッファ氏は米国の中産階級育成に貢献した。米国労組はそれに学ぶべきだ」とする論説を掲げた。
 イリノイ大学クリス・ライト教授によるその論説要旨は以下の通りだが、米国労組の伝統である"力による労働運動"を強調している。

 ホッファ元会長殺害を自供したフランク・シーラン氏(訳者註:同労組ローカル委員長、2013年死去。但し現場の血液のDNA鑑定は一致しなかった)の映画が近く配信される。
 未だ、多くの人に強く残るホッファ元会長の記憶は、悪名高き独裁者で、汚職まみれのマフィアの友人の姿である。それに異論はないが、想起すべきは、それ以上に彼が労働運動指導者として残した輝かしい功績、そして第2次大戦後の中産階級の育成に果たした大きな役割である。

 彼は多くの人から愛され、その死を惜しまれた。労働者を貪欲に搾取し続けた社会に断固として立ち向かい、不当な扱いから労働者を救い出した。汚職とマフィアとの関係で起訴された時も、後悔することなく「経営者は多数のギャングを雇ってスト破りをした。組合が彼ら数人を雇うと大騒ぎする」と反論して、偉大さを知る多くの仲間から拍手を浴びた。

 彼は1930年代のトラック業界における中小企業の乱立、低賃金、安全無視という体制を1960年代には産業的に整備し、高給与で人間的な職場に変革した。2倍の高給与に惹かれて有名大学教授数人がトラック運転手に転職した話もある。

 また、彼は使用者と同様、規則に従わないことで成功した。実業界が政治家に、マフィアが警察に賄賂を使うなら、何故労働組合がいけないのか? こうして、あらゆる手段を駆使して使用者に労働組合を認めさせ、高額の医療保険や年金を実現、労働者を尊重するよう認めさせた。

 1964年には25年来の夢であった全米全企業適用の"全国マスター運輸協定"を締結した。
 年収4万5千ドルの一律賃金など、南部諸州が低賃金に据え置かれているなかで、異色で信じられない功績を残した。彼は、多くの法律違反も行ったが、法律違反であればR・ケネディ司法長官の盗聴行為をはじめとする、実業家や政治家による数知れない事例もあった。

 しかし、何故彼だけが起訴されたのか。答えは労働組合が標的にされたからだ。ホッファは最大・最強の労組会長だったが、チームスターズは民主党と共に共和党をも支持する政治的独立路線を歩んでいた。

 実業界は1950年代、ニューディールに触発されて台頭した左翼自由主義を抑えるため、大規模な政治活動を展開して福祉思想の抑圧と労働組合の弱体化を図った。格好の攻撃材料となったのが労組の汚職とマフィアとの繋がりだが、同様に汚職やマフィアに関係した多くの政治家や実業家は黙認された。

 ホッファ元会長の人生教訓は今も生きている。強い労働組合を造るために指導者は率先して経営者と対決し、草の根の組合員と共にその利害を守るため積極果敢に立ち向かうことを教えてくれた。労働組合の力は最終的に組合員にある。そのためには権力との友好関係でなく、彼らと敵対することも必要になる。教員スト、最低賃金15ドル実現の戦い、民主社会主義指向の現代にあって、全労働組合がこの教訓に学ぶ必要がある。

 以上がワシントン・ポストの論説だが、筆者が抱く疑問は米国の労働組合が伝統的な戦闘的労使関係に止まっていて良いのかどうかである。米国の労働組合組織率は1954年に35%近くに達したが、その後低落が続き、昨年は10.5%に落ち込んだ。公務員は33.9%を維持しているものの、民間は6.4%である。背景には多くの州で労組加入を従業員の自由意志として組合潰しを狙う"労働の権利法"が制定されるなど、使用者側の激しい労働組合への敵意と一般米国民からの労組意識がある。南部州で子供たちが労働組合と聞かれて「怖いおじさんたち」と答えた話もある。一般国民からの理解が重要と思われるなか、伝統的なホッファ流の労働運動で良いのだろうか?

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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