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No.566(2019/10/7)
労働組合の労使交渉に新たな交渉材料が必要

 8月30日のワシントン・ポストは9月1日の労働記念日に当たり、ドレール論説委員(Columnist)による標題の論説を掲載した。要旨は次のとおりである。

 アブラハム・リンカーンの言うことは正しい。彼は「労働は資本とは独立して、資本に先立つものだ。資本は労働の果実に過ぎず、労働なしには存在しない。労働は資本に優先し、より高い配慮を受ける価値がある」と述べた。

 現在、それを言うと“隠れマルクス主義者”と言われるが、それは違う。貧困から財を成したリンカーンは、典型的なアメリカン・ドリーマーだ。無一文だった彼は、金を稼ぐには頭を使い、体を使う激しい労働が必要と意識し、仲間との協力にも心掛けた。道具や土地を買うために貯金し、時として他人に無料で奉仕し、人を雇うようにもなった。こうして人々は、資本を蓄え、それを投資することで社会全体の生産力を向上させてきた。

 資本に優先する労働なのに、なぜ労働組合が組織率10.5%にまで落ち込んだのか? なぜ65年も落ち込みが続いているのか? 数々の研究があるが、私の考察ではその責任は労働組合自身にある。それは多くの労働組合が市場経済を傍観し、市場への新たな価値の付与とその分配を追求すべき時に、それをしなかったからだ。
 1930年代から1950年代の労働運動勃興期に労働集約的大量生産があったことは偶然ではない。鉄鋼や炭鉱などの職場で多くの労働者が歯車のように働いて汗を流したが、その過酷な労働条件が労働運動の前途を開いた。労働組合にストライキによる操業停止の力を与えたのだ。

 しかし、ストライキを行う力はストライキを行わない力でもある。ストライキをしないことは工場や炭鉱、造船所にとって有り難い。労働組合は強力な力を持って、労使平和と引き換えに賃金や労働条件の改善を獲得し、職場への影響力を持った。
 しかし現在、米国工場や農園で見る光景は優れた機械とともに働く数少ない労働者である。この傾向はストライキを行う力を著しく減衰させているが、同時にストライキを行わない力も減衰させる。

 ここで労働組合が直面するチャレンジは労使平和に代わる新たな交渉材料を見出すことであり、賃金や労働条件改善にどのような交渉材料を提案できるのか、組合員には労働組合加入にどのような特典を提供できるのか、である。

 今、米国労組の為すべき課題に、多くの企業が訴える労働における技能ギャップの問題がある。それは、学校教育と実際の仕事に必要な技能とのミスマッチの問題である。この技能ギャップ問題は、学校教育にも問題があると言われるが、産業界のニーズは分野によりそれぞれの特異性があり、産業別または仕事別な取り組みが必要である。

 この点で求められるのは、全ての労働組合が現行の技能ギルド、トレードユニオン(職能組合)機能をさらに強化して、組合員への職業訓練に磨きをかけることである。
 すでに国際友愛電機工労組(IBEW)では、数年の訓練の後、ジャーニーマン資格(見習いとマスターの中間の職人資格)を取得させ、使用者は労働者の特定技能を踏まえて雇用する。長期間の見習いによる修練と職業倫理という価値にも対価を払う。
 このことは労組指導者にも意識の変更を促し、使用者を敵対相手ではなくパートナーと見る意識が必要になる。労組指導者は迅速かつ生涯の職業訓練を通じて労働者の質を保証して、職場改良に資する。これに成功した企業が長期の良質雇用を維持することになる。

 労働統計局によれば、米国の登録看護師の年収は平均労働者よりも33,000ドル多い。何故だろうか? アメリカ看護協会労働組合(ANA)はナーシング・アカデミーを運営して看護師を育て、資格認定センターによる特別看護師資格証明を与えている。同様に、全国教育協会労組(NEA)は学校改革へのエンジンとしての実績を残し、全米通信労組(CWA)はツイートの安全確保を目的に報道関係労働者への職業訓練を実施している。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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