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No.560(2019/9/17)
労働者を役員会に入れる会社はスマートかも(米国への共同決定法導入を想定)

 8月20日のワシントン・ポストはブルームバーグ通信社のノアー・スミス論説委員(Opinion Columnist)による標記の主張を掲載した。「この主張は必ずしもブルームバーグ通信社ないし編集部としての意見ではない」との注釈があるが、要旨は以下のとおりである。

 1986年、スペース・シャトル、チャレンジャーが爆発事故を起こしたとき、調査に当たった物理学者フェイマン氏は先進技術を使うのではなく、建造に当たったエンジニアを訪ねて事故原因になりそうな部品情報を収集し、ゴム輪ジョイントに欠陥を見つけた。

 このことは日常の業務に労働者が多くの知識と情報を保有していることを示している。
 店員や営業部員は顧客の要望や購買動機、組立工は適正作業速度や欠陥品の防止、エンジニアは製品デザインを如何に見直すかを知っている。現場から離れている経営者は時としてこうした事実を見落とすことがあり、作業段階での問題を発見しないで、事業の売却や縮小に走りがちである。

 1976年ドイツはこの問題に対して、労働者を直接役員会に入れるという革新的解決法を見つけた。それは2,000人以上の企業は役員会議席の半数を労働者の選出代表に、500人~1,000人の企業は3分の1を労働者代表に与えるとする共同決定法である。
 米国ではこの制度をエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党大統領候補の一人)が提唱しているが、しばしば賃金諸手当の増額要求を強めると懸念されている。

 しかし、実際には生産性向上に効果のあることが確認されており、その点に注目したい。
 ドイツにおける各種調査の結果、共同決定法の実施企業に生産性の上昇が見られ、株主の権利抑制を狙った共同決定法が皮肉にも株価を上昇させた効果について、労働者参加による企業運営の改善が指摘されている。

 1994年、ドイツは従来企業への決定法適用はそのままにして、新規小規模企業への共同決定法の義務付けを免除した。この時点で調査に当たったのがイエーガー教授などの経済学者だが、明らかになったのは、労働者役員を持つ企業において、建物や機械などの固定資産投資が増えて資本集約が強化され、労働者一人当たり付加価値が増大したこと、反面、共同決定法による賃金への影響は見られなかったことである。つまり、一般労働者と経営者報酬には違いが起きず、投資家と労働者の収入にも変化がなかった。結果は、労働者代表制度の主要な効果が企業のパイの再配分ではなく、その拡大をもたらしたことにあった。

 この調査から、米国に共同決定法を実施した時を想定すると、会社役員会への労働者代表制度によって、労働者報酬の減少傾向の逆転、賃金と生産性の乖離、経営者報酬と一般労働者給与とのギャップ、ということに変化は起きそうにない。それを起こすには労働組合の増加や労働者協議会、賃金委員会などの他の制度改革が必要ということになる。

 それよりも、共同決定法は米国で数十年続いている長期的企業投資の減退を逆転させるツールとして見るべきであろう。言い換えれば、労働者代表制度は企業縮小への対抗手段となる。事業不振に陥った時の安易な企業売却や縮小、人員整理を防止して、長期的な企業価値を増大させて投資家を利するものとなる。同時に共同決定法は米国労働者の雇用を守り、失業率を減らすことにもなる。

 また共同決定法は米国に効率的な中小製造企業を誕生させて、伝説的なドイツの中小企業王国(Mittelstand)神話にも挑戦できることになる。厳しい国際競争の中でドイツの強みは中小企業の力にあると言われている。

 役員会に労働者代表を持つことは米国労働者に尊厳と重要性の意識を与え、大企業支配の経済にあって、中小企業の労働者の助言が経営段階で役立つというオーナー感覚から、今の政治不安を和らげることにもなる。

 共同決定法が米国企業の問題すべてを解決するわけではないが、生産性を増進させ、投資を刺激し、雇用を促進、仕事を尊厳と意味あるものと理解させる大きな手段となる。共同決定は如何なる経済改革にあっても考慮されるべきである。
る一方、フォード財団などからも支援を受けている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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