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No.557(2019/8/26)
99%の米国民に大幅な所得の上昇

 7月30日のウオールストリート・ジャーナル紙は標記の社説を掲げ、新たなデータによると、国民全体の賃金や所得が急速に上昇しているとして、「1%への富の集中で米国民の99%が犠牲になっている」との通説に反論を加えた。

 新たなデータは商務省の経済分析局(BEA)による年次個人所得調査から得られたもので、国民全体の可処分所得と賃金に大幅な上昇が見られるとして、2017年の給与所得が4.5%、2018年が5%、2019年には前半6ヵ月だけで3.4%上昇したと言う。また去る5月は前年同月比5.3%、6月は5.5%、物価調整後も4.1%上昇したと言う。

 他方、6月発表の労働省による時間給年間上昇率は3.1%であったが、原因の一つは老齢・高所得労働者の退職と若年・低所得労働者の雇用増加によるとみられる。
 BEAはさらに2017年と2018年の個人所得を1.7%上方修正、移転所得を0.7%下方修正したが、これは米国民がより所得を増加させ政府補助金を減少させたことを意味する。また個人貯蓄については過去2年間に2,170億ドル増加して1.3兆ドルに達したが、貯蓄傾向の高まりを意味する。
 去る5月の個人貯蓄率も6.1%から8.1%に上方修正されたが、過去2回のリセッション(景気後退)前の5%を大幅に凌ぐものであり、過去の家計ローン増加による消費拡大という事例に比較して、所得上昇を背景にした現在の消費拡大に、景気の息の長いことをうかがわせる。

 オバマ政権時代にリベラル派の人たちは「長期的な不景気は労働者の所得が増加しないため」と言い、「2017年以降の経済も従来と同じ傾向にある」と主張しているが、2019年前半6ヵ月の給与所得の上昇額はすでに2016年全体を上回っており、トランプ政権2年間の給与所得総額は2015年と2016年の2年間合計より42%増加しており、リベラル派の主張が誤りであることを示している。
 経済政策が変わったのは2017年、法的規制の緩和により抑圧された動物的本能がエネルギー分野を中心に解き放たれ、税制改革が新規設備投資を刺激した。それはこれからの生産性向上と賃金上昇へと繋がることになる。トランプの貿易政策によるダメージも改革による恩恵で救済できる。民主党や保守派の一部には労働者が税制改革の恩恵に預かれないとする者がいるが、事実は逆である。

 2016年から2018年にかけての企業による税引後利益は2,200億ドル増加したが、その間給与所得は1兆ドル増加した。2019年第1四半期の企業利益は2.9%減少したが、賃金は年率で10.1%増加している。今の経済は確実に99%の国民に恩恵をもたらしている。

 以上がWSJ社説の要旨だが、米国の一般国民に所得上昇の兆しが見えてきたことは誠に喜ばしい。
 しかし、ここで指摘しなければならないのは1%対99%の経済格差が厳存し、いびつな経済構造が定着していることである。7月18には「民主党優勢の米国下院議会が2025年までに最低賃金を現行の7.25ドルから15ドルまでに引き上げる法案を通過させた」(同日ワシントン・ポスト)が、共和党優勢の上院議会とトランプ大統領による反対が予測されている。
 過去10年間、米国の経済成長率(GDP)は毎年実質で1.6%―2.9%、平均2.2%の成長(BEA統計)を成し遂げながらも、その間の最低賃金は7.25ドルに据え置かれ、その低額の引き上げにも未だ強い反対がある。超寡占の一部富裕層が99%を経済支配する構造とその強い力が見える。

 歴史的に見て、このような経済構造は社会不安を呼ぶ。民主主義体制の基盤には自由とともに平等がなければならない。米国はいま経済的権益を外国や移民に侵害されたと感じるかつての中産階級がトランプ大統領に解決を求めているように見えるが、こうした大きな不平等が意識されるとき、社会不安が起きる。平和で豊かな社会の実現のためには、自由と平等を基盤にした民主主義体制の確立が不可欠である。

 米国にはこうした経済格差の拡大の原因が労働組合の弱体化にあるとする主張がある。
 富の集中の端的な一例にアマゾン社があるが、2018年7月8日英国のガーディアン紙もこの点について「アマゾン社は1994年の創業以来、一貫して労働組合を嫌い(中略)...創業者ジェフ・ベゾスCEOは労働者の犠牲の上に1,400億ドルに達する世界一の資産を築いた。公平な配分を実現するには労働組合が必要だ」とする問題を提起した。この機会に再度、我々の身近なところから労働組合の存在意義と労使関係がもたらすものについて社会全体で考えてみたい。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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