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No.552(2019/7/19)
全米自動車労組(UAW)の不祥事がフォルクスワーゲン労組の結成を阻んだ

 6月16日のウオールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は「UAWの衰退はなぜ続くのか」という社説(Editorial opinion)を掲載した。要旨は次のとおりである。

 昨週、UAWは2度目となるテネシー州フォルクスワーゲン(VW)工場の組織化に失敗した(反対833-賛成776)。2014年の組織化失敗時には、共和党による強い政治介入があった。今回は、共和党所属のテネシー州知事ビル・リー氏が“労使協力の大切さ”を強調し、「同州の平均賃金をかなり上回る時給23.5ドルの厚遇にあるVW労働者が、組合費を徴収されて、企業競争力を危険にさらす労働組合に入る必要はない」とも主張した。

 他方UAWには、同労組上層幹部による汚職問題、組合費濫用という不祥事が重なった。去る4月には、フィアット・クライスラー(FCA)の労使交渉部門担当のノーウッド・ジュエル前副会長が会社から食事やゴルフ旅行など数万ドルの供応を受けていたことが判明した。

 しかし、UAW広報担当者はこうした不祥事を無視して、「組織化の失敗は会社による脅迫や威嚇という法律違反が理由だ」と主張している。だが、現在は1910年代とは違う。労働組合の組織化は法律で守られており、UAWには長年にわたりチャンスがあった。
 会社は、売り上げが減少すれば、必ず売り上げを伸ばす方法を再検討する。売り上げ減少にあるUAWも同じことをするのが賢明である。

 以上が、使用者側を代弁する立場の多いWSJの社説だが、長年、UAWを見守ってきた筆者も、残念ながらその指摘を肯定せざるを得ない。

 UAWの汚職は、前掲のジュエル副会長だけでなく、同じFCAの労使交渉部門担当であったホリフィールド副会長(2015年3月死亡)も200万ドルにおよぶ収賄事件を起こしていた。」(2018年6月13日 デトロイト・ニュース)。
 しかし、監督責任を負うべき当時のウイリアムズ会長は昨年6月の定期大会での退任演説で、一言も事件に触れることなく、在任中の財政健全化や組合員の増員という功績を強調するのみであった。(同月UAWニュース)。
 その他に、FCA交渉に当たったジュエル副会長の補佐の話として「ウイリアムズ会長自身がUAW本体の赤字減らしに、汚職に関連した費用の流用を承認していた」
 とも伝えられる。(2018年10月 World Socialist Webb Site、https://www.wsws.org/
 筆者はこの状況に強いショックと失望を感じ、歴史上これほど傷つきながら恥ずべきUAWの姿は見たことがない思いである。

 しかし、今回のVW労組結成投票で注目すべきは、支持率が初回の46.8%(反対712―賛成626)に対して、それを上回る48.2%という僅差を示した点であり、共和党による悪宣伝やUAWの大失態にもかかわらず、多くのVW労働者が労働組合に期待している姿である。労組待望の機運は、VWドイツ本社におけるドイツの労組(IGメタル)からの支援もあり、労働者協議会の設立を通じて労使協議による経営を推進しようとするテネシー州VW工場において、力を増している。

 UAW上層幹部による失態がなかったら、労組賛成が過半数を制し得たのではないかと、筆者は推察する。労働者の期待を裏切り、長期間の組織化に懸命の努力を傾注した第一線担当者の無念さを思うとき、失敗の理由を会社の脅迫によるとして、内部腐敗に反省が見当たらないUAW指導層に肌寒い感がする。誇り高く毅然としたUAWの再構築を切望するところ、大である。それと同時に、VW社労使が取り組む労使協議制度が戦闘的色彩の強い米国労働運動に変化をもたらし、労使協力による新たな労働運動誕生のきっかけにつながれば、これほど素晴らしいことはないと思える。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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