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No.549(2019/7/1)
転機となるか韓国自動車産業労使関係

 強硬路線で有名な韓国自動車産業労働組合、その路線に変化が訪れるかもしれない。
 昨年6月から一年におよぶルノーサムスン社の賃金交渉、また本年6月5日に行われた団体交渉も物別れに終わり、組合側は全面スト突入を宣言した。しかしながら、釜山工場のラインは停止しなかった。この間の事情を韓国中央日報・日本語電子版(2019.6.7)は次のように伝えている。

(要旨)
 執行部が6月5日、夜勤からストライキに入るとの方針を打出したが、半分ほどの組合員がこれに反発して生産ラインに残った。この日、釜山工場は組み立て速度がやや落ちたが、結局、予定通り6日0時30分まで稼働した。
 ルノーサムスン社労働組合の執行部が全面ストという強硬姿勢を見せるなかで組合員がこれを拒否して工場を稼働させたケースは、韓国自動車企業の歴史で類例を探すのが難しい。ライン操業の特性上、1つの工程がストップすればその後の工程も一斉に中断する。したがってストに反対する少数の人員が勤務しても自動車生産ラインを稼働するのは不可能だ。
 しかしこの日、工場が予定通り稼働したというのは、現在の労働組合執行部に反対する生産職労働者が多いことを示している。(以上)

 韓国には労使の対話を重視する韓国労総とより強硬路線をとる民主労総の二つナショナルセンターがある。ルノーサムスン労働組合は昨年9月執行部を民主労総が握って以降10月から時限ストを繰り返し、本年2月以降戦術をより強化してきている。

 交渉が長引く中、本年5月にはようやく暫定合意に達したものの、その合意案は組合全員投票において否決される結果となった。しかしその内容を見ると生産労働者(1,662名)の内52.2%は暫定合意案に賛成していた。しかしながら、事務職労働者(442名)の65.6%が反対に回ったため、僅か48票というきわどい差で否決されるに至った。(中央日報調べ)この時点において生産現場では長引く闘争に対し疑問視する組合員が相当数いたことになる。

 今回、執行部のスト指令に対する組合員の拒絶も、執行部のこうした繰り返されるスト中心の闘争方式に見直しを迫るものになると考えられる。

 同中央日報(2019.6.7)はルノーサムスン労働者の会社の将来を懸念する気持ちを次のように伝えている。

(要旨)
 労働者たちは、昨年のルノーサムスン社賃金交渉に釜山工場の命運がかかっているという点を意識している。仏ルノーグループ本社はルノーサムスン社が2018年賃金交渉を終えた後に後継の生産車の配分を議論すると公表した。釜山工場の生産の半分(47.1%、2018年)を占める日産自動車の準中型SUV「ローグ」の委託生産契約は9月に終わる。さらに釜山工場に配分する予定だった新型CUVも、ルノー社スペイン工場が強力なライバルに浮上している。(以上)

 組合員の要求に基づいた賃上げを達成することは執行部の使命である。それを達成するために交渉が不調に終われば、ストライキに訴えることも労働者の公正な権利である。
一方、中央日報は今回スト指令に反して操業に加わった組合員の声として「部品を供給してくれる企業の人たちのことを考えると、ストに参加できなかった」と報じている。
 このことは労働組合の社会的責任と民主主義における合意形成について考えるとき、ある思想家の言葉を思い起こさせる。曰く「(今回のような深刻な対立の場合の)合意形成とは双方が満足する解を出すのではなく、どちらかが勝った負けたでもない。勿論、一方の満足を最大化させるものでもない。当事者たちの同等に不満足な解をどう出すかが大事だ」
 さらに言えば、ステークホールダー、即ち消費者(顧客)、債権者、仕入先、得意先、地域社会などに対する一定の考慮も労使には求められているはずである。
 ストライキを繰り返し、闘争が長期に及ぶことは組合員のためにはならないし、健全な労使関係構築を妨げるケースがほとんどだと思う。
 執行部と会社側の冷静で真摯な議論に基づく、韓国自動車産業労使関係の健全な発展を願ってやまない。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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