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No.548(2019/6/17)
労働者が労働市場で力を得るために、労働技能の情報プール構築を提言

 5月24日のワシントン・ポストはマークル財団ベアード会長などが提唱する標記の提言を社説(Editorial opinion)として掲載した。要点は以下のとおりである。

 大統領選挙時には資本主義か社会主義かが話題になるが、選挙民の人種構成が大きく変化してきても、米国にはアメリカン・ドリーム実現の願望が生きている。選挙民は労働者個人の力を最大限引き出してくれる市場経済の実現に期待しているのだ。

 しかし世界経済はAIやオートメーションによる労働者排除という社会的、経済的挑戦に直面しており、経済格差が拡大の危機にある。この挑戦に対して共和党、民主党は単純に“労働者の再訓練”を唱える誤りを繰り返している。グローバリゼーションの際にも、政治は労働市場改革に後れを取り、急速な経済変化についてゆけずに労働者に損害を与えた。

 必要なことは、労働者が労働市場で力を持つことだ。その一つが労働者の持つ技能への情報アクセス拡大という仕組みである。労働者が、自分の技能で生み出した富の分配を獲得し、さらにそれを増大させ、経歴を積み、仕事の尊厳を確立してゆくためのインフラ造りである。

 そのために、使用者は従業員の技能・才能を公開して、従業員がその価値を自分の所得にできるようにする。現在は、仕事で得た技能を市場に出して次の使用者に売ることはできないが、これを変えるのだ。
 自動車製造に従事する労働者を例にとると、使用者がその労働者の深い知識や機械、電気、コンピューター診断の才能を認めていても、労働市場で彼は単に自動車製造に従事する労働者である。仮に彼が先進企業の技術者として転職したいとしても、自力では不可能である。ある人は、技能のライセンスを取るかもしれないが、それが技能を十分に証明することはできない。
 しかし、従業員の技能を証明することができれば、その技能に応じた仕事に就くことができるようになる。テクノロジーで職場が変化しており、技能証明書は新たな就業機会へのパスポートになる。そして、労働者は自分が保有する技能リストを労働市場に公開し、使用者がこの技能リストの情報プールにアクセスするのだ。

 今は、こうした情報の不足から使用者は、4年制大学の卒業を採用基準にする。先述の自動車工も、機械工学の学士号がなければ先進的な仕事には不適当とされるかもしれない。
 学歴以外の基準で採用を決める使用者もいるが、実際問題、学士号のない米国労働者の70%がデジタル経済から排除されている。重ねて強調するが、必要なのはウエッブ・サイトを使って技能が証明できる仕組みであり、それが公開され利用される社会である。

 生涯教育や職業訓練には連邦政府や地方自治体も力を入れて大量の資金も投入しているが、労働者が自力で労働市場力をつけてゆく観点からすると、それに必要な費用を所得税控除とすることが望ましい。つまり、健康保険料の控除と同じように職業訓練や教育の費用を税控除するのだ。同時に労働者はコストではなく、企業の資産として認識されなければならない。

 そして、労働組合は、労働者を団体交渉の力としてだけでなく、教育や職業訓練を通じて労働市場の力に変えることが出来る。
 また、労働組合は、多くの仕事が労組の外部に産まれている今、非組合員の労働者が労働市場で力を得るために、如何にしての支援ができるのか、模索する必要がある。

 私たちは、政治家や企業経営者による経済政策を様々な物差しで評価してきたが、激動する経済変化の今、新たな方法を採用する必要がある。それは、労働者が自分でその市場力を高めて、将来を切り拓くという方向である。

 以上が提言の要点だが、これを社説として重視したワシントン・ポスト紙の姿勢に注目したい。なお、マークル財団は、ニューヨーク市に所在し、100年近い歴史を持つ慈善団体で、テクノロジー、医療、国家安全保障分野でITを活用してその研究者を支援している。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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