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No.546(2019/6/10)
労働組合の衰退続く―責任は労働組合自身にある

 4月30日のウォールストリート・ジャーナル(以下、WS紙)は標記の社説・論評(Editorial-/Review)を掲げた。使用者の立場に立つ同紙からの、労働組合には耳の痛い指摘だが、要旨は以下のとおりである。

 民間労組の組織率は25年間で16.8%から6.4%に低落したが、その間労働協約が製造業の企業競争力を削ぎ、経済は一層サービス産業へと傾いた。公務員労組も同様に、法律で団体交渉と非組合員の組合費納入を義務付けられていながら、一昨年の34.4%が昨年は33.9%に下落、1983年以来最低となった。
 民主党政権にあって、過半数署名による労働組合結成承認法(2009年)に失敗したオバマ政権は全国労働関係委員会(NLRB)を使ってファストフードのフランチャイズ店組織化に圧力をかけたが、民間組織率の低下は続き、過去10年ほぼ全産業で下落を見た。運輸産業は22%減少、製造業21%減、建設業18%減、医療15%減などである。理由の一つは各州における労働組合加入を自由意志とする“労働の権利法”採用があり、ウイスコンシン州ではそのため公務員組織率が30%減少した。雇用は“権利法”採用の各州に移動を続け、外国自動車メーカーは南部諸州に新工場を開設した。
 賃金上昇も抑えられ、非組合員との格差も縮小している。建設業では2000年~2008年に非組合員より0.2%高かった昇給率が2008年以降0.3%低くなっており、医療分野でも0.3%低い推移を示している。
 労働組合員が享受してきたのが医療保険や年金である。これは2008年以降も非組合員より1.7%高い上昇を示しているが、その恩恵が続くかどうかは怪しくなっている。運用にあたる企業年金基金の多くが債務超過に陥っており、今後20年間で130の基金の破産が予測されている。つまり、積み立てた掛け金も回収できないことになる。
 公務員も財政的に維持できない労働協約が結ばれており、地方自治体は年金支払いに公共サービスや人員削減を余儀なくされている。組織率の高い州ほど負担が高く、70%の組織率のNY州では10年間で21,000名の人員削減、コネチカットでは19,800名、ニュージャージーでは33,300名削減した。それも増税を続けてのことである。
 結果として住民は団体交渉を義務付けない低税率の州に逃避することになり、フロリダやユタ州といった高経済成長、高税収、高公共サービスへと移動する。ユタ州ではここ10年公務員が36,000名増員されたが、その労組加入率は18%に過ぎない。
 リベラル派は資本主義が労働組合を衰退させ、賃金停滞を招いたと主張するが、公務員労組も民間労組と同様に縮小している。その原因は使用者の競争力を奪うほどに賃金諸手当を引き出した労働組合にある。政治的な威圧で成長を図ろうとするビジネス・モデルに存続の可能性は無い。

 以上がWS紙の論評だが、米国の労使関係は近年とみに先鋭化しており、本年3月現在、全米50州のうち半数を超える26州で“労働の権利法”が採用されて、容赦ない労働組合の弱体化が進んでいる。
 米国労組は訴訟に訴える法廷闘争などで抵抗を続けているが、国政及び各州選挙では企業の立場を重視する共和党への支持が多く、その政策を覆すことができない現状にある。
 論評は労組要求が企業競争力を阻害しない範囲にあるべき、と述べているようである。
 産業、企業は労働者が日常の糧を得る基盤であり、その存続が大事なことに異論はない。
 そして、企業競争力は経営者と従業員とが力を合わせて造るものでもある。
 その点で今問題にすべきは米国産業界に横行する極端な不公正である。産業界は過去10年、景気拡大や企業減税などの恩恵で収益増加を享受しながら、その間、企業競争力維持の名のもとに共和党の力を借りて、最低賃金を抑え込んでいる。不公正な社会が永続できないことは歴史が示している。その不公平、不公正を指摘し、均衡の取れた社会を築いてゆくための存在が労働組合であることも忘れてはならない。弱体化させれば良いというものではない。
 最低賃金の抑え込みと“労働の権利法”はまさしく同紙が否定する“政治的威圧によるビジネス・モデル”とはいえないだろうか?
 米国労組は闘争主義から脱して、労使対話の制度化や一般労働者を包含する労働政策の展開など、社会の共感を呼び起こす必要がある。しかしながら、大道・中道に立つべき米国一流紙のWS紙がこのように仮借ない労働組合批判を載せたことに、米国労使関係の亀裂の深さを感じて、暗澹たる思いに駆られる。労働運動における協調を大切に思う日本の労働関係者として、その修復にどのような国際的貢献ができるのかを真剣に考えなければならないと思う。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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