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No.541(2019/5/10)
苦境が続く韓国自動車産業、雇用創出に悩む光州市、打開策となるか「低賃金工場」

 韓国自動車産業協会が4月2日に明らかにしたところによると、現代・起亜自動車など韓国の自動車メーカー7社の2019年1-3月期の生産は95万4908台、前年同期0.8%減となった。世界経済の停滞・国内需要の減少にルノーサムスン労組の長期ストが加わり、生命線とされる年間400万台生産を危ぶむ声も出ている。
 4月3日付韓国中央日報・日本語版は韓国自動車産業協会チョ・マンギ会長の声として「高コスト低生産性構造と労働柔軟性の不足から韓国の自動車産業は衰退している」と伝えている。

 一方、韓国経済新聞と韓国自動車産業協会は昨年7月現代自動車、起亜自動車、韓国GM、ルノーサムスン、双竜自動車の自動車5社の昨年の平均賃金の分析結果を公表した。
 同調査によると、韓国自動車企業の1人当たり年間平均賃金は9072万ウォン(約901万円)。他方日本のトヨタは8391万ウォンやドイツはフォルクスワーゲンの8303万ウォンとなっている。自動車産業協会関係者は「韓国の自動車5社の昨年の平均賃金は2016年の9213万ウォンに比べると小幅に下落したが、2005年の5009万ウォンと比較すると12年間に81.1%高騰した。海外の競合企業の賃金水準をいち早く追い越した」としている。

 こうした韓国自動車産業の高コスト体質を是正し、競争力を高めたい業界と失業・雇用創出に苦しむ自治体との利害が一致し企業と地域の新たな共生モデルを目指すのが光州市・現代自動車「低賃金工場」である。本年1月31日両者は投資契約に調印した。

 1月31日付日本経済新聞によると、計画の骨子は以下の通りである。
(要旨)
 両者は完成車の受託生産会社を設立。年産10万台の工場を建設する。投資規模は7000億ウォン(約680億円)で、市が21%、現代自が19%をそれぞれ出資。残りは投資家や地元企業から投資を募る。現代自は新会社に軽SUVの生産を委託。17年ぶりに軽自動車市場に再参入する。

 新工場の従業員の平均初任給は年3500万ウォン(約350万円)。光州市によると現代自の通常の工場労働者の年収は9200万ウォンだ。残業や休日出勤込みで勤続年数も違うため単純比較はできないが、新工場の給与水準は大幅に低い。住居や福利厚生は光州市や政府が支援し、暮らしの質は確保する。計画は光州市が策定し、現代自に提案した。同市は「直接雇用だけで1000人以上、協力工場を含めると1万2000人の雇用を生む」(自動車産業課)と期待する。

 計画に対し、全国民主労働組合総連盟(民主労総)・現代自動車労組は猛反発しているが、同計画には韓国労働組合総連盟(韓国労総)光州支部が参画している。
 4月19日付ロイター日本版は、かつて光州市・起亜自動車労組のトップを務めたパク・ビュンキュ氏(53)の見解を次のように伝えている。「韓国自動車労組による強硬で大半が好戦的な手法は自分たちの権利を守るために他の労働者を犠牲にしている。既得権を持つ労組は変わらなければならない。組合労働者は現実を直視すべきだ」。

 同紙はまた中国経済の減速、米国の保護主義、最低賃金の上昇といった状況の下で、アジア第4位の経済である韓国は雇用創出に苦しんでおり、文在寅政権にとって雇用は重要な関心事となっている。文政権は光州市の新工場に対して財政的な支援を行う予定であり、6月までに他の2つの都市でも同様の官民プロジェクトを導入する計画だ、とも報じている。

 韓国の自動車労組の将来を考えるとき、どうしても頭をよぎるのがかつて高賃金と組合員150万人以上を誇った全米自動車労組である。ビッグスリーの衰退に加え米国進出した企業の多くが同労組の組織化を避けた結果、今日同労組の組合員数は全盛期の三分の一までに減少した。
 強い組合は必ずしも戦闘的な組合でなければならないという理屈はないし、自らの組合員の利益だけに固執すれば、企業を危うくする可能性も高いと理解すべきだろう。また、社会的な存在としての労働組合への共感も得られないだろう。

 韓国労総も加わったこの新たな試みは、これからの韓国自動車産業の体質・労使関係の在り方に加え、失業・雇用創出に苦しむ地域を救い企業と自治体がいかに共生していくべきかを考えるうえでも注目される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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