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No.537(2019/4/15)
日本の貧富の格差問題

 今年の春の生活闘争(春闘)も3月13日の金属労協の集中回答を皮切りに、大手企業労組の多くが妥結に至り、中心は中小企業に移ってきている。春闘の開始にあたって、今年2月4日、連合は春闘中央総決起集会を東京都内で開いた。その中で神津里季生会長は「近年中小企業のべースアップが全体の水準を上回ることや非正規の人が正規の人のアップを上回ることが、ある意味当たり前になってきたが、こうした私たちの熱は世の中にどこまで伝わっているのか。すべての働く者のため頑張ろう」と述べ、格差是正を訴えた。

 さて賃金格差には大企業・中小企業、正規・非正規、男女、地域等様々な格差が存在する。
 どれも政労使が協力して取り組まなくてはならない課題である。

 ここでは少し視点を変え昨年、Capgemini(フランス・パリに本拠地を置く世界的コンサルタント会社)のWorld Wealth Report 2018による、日本における富裕層とそれ以外の人々との貧富の格差について見てみよう。

出典:https://worldwealthreport.com/reports/population/asia-pacific/japan/

 ここでいうHNWI (ハイ・ネット・ウェルス・インディビジュアル)とは金融資産100万ドル、日本円で1億1千万円以上を保有する個人を指す。金融資産のみで土地等の実物資産は含まない。
 その数はここ数年急速に増加している。日本における2017年のHNWIの数は316.2万人、前年より9.4%増えている。またこの316万人は米国の528万人に次いで世界第2位である。

 日本のHNWIが保有する金融資産は7.7兆USD、日本円で847兆円に上る。
 一方2017年9月に日銀が発表した家計の金融資産残高は6月末時点で、前年同期比4.4%多い1,832兆円と過去最高を更新した。

 また2017.6での日本の人口は1億2,650万人、したがって316万人という日本の人口の僅か2.5%に相当する人々が日本の金融資産の実に46.2%を保有すると推計できる。
 2016年1月、国際NGOオックスファムが「現在世界人口の最富裕層に当たる1%が世界の資産の48%を保有する」という報告者を発表したことは記憶に新しいが、まだまだ資産の保有の格差の少ないといわれる日本でも、確実にその差は広がり始めている。

 2017.6の日銀「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯)」で金融資産を保有していないと回答した世帯は31.2%、世帯の平均資産額は1,151万円、中央値は380万円となっている。同行の単身世帯調査では、金融資産を保有していない世帯は46.1%、資産額平均値は946万円、中央値は32万円となっている。いずれも前年に比べ平均値はわずかに上昇しているものの、中央値は下がっている。
(なお本調査はすでに2018年6月調査が発表されているが、金融資産の定義が2017年以前と異なり、Capgeminiとの比較上2017年調査結果を用いた。)

 この図は同調査より保有金融資産額別世帯割合をグラフにしたものである。

 以上見てきた通り、Capgeminiの調査あるいは日銀の各種調査を見ても、今日の日本において富裕層と一般層の間には大きな格差が存在することが判る。また、金融資産1億円以上の保有層は近年急速に増加している。

 異次元の金融緩和が長期に続き、円安と株価の上昇に支えられて、企業業績の向上・内部留保の蓄積が進むと同時にこうした富裕層の増大も著しい。しかしながら多くの雇用労働者、自営業者、年金生活者の生活状況に変化は見られない。

 一国の健全な経済成長は、個人消費の拡大に負うところが大きい。その消費を支えるのが生活者の収入・資産である。富裕層が拡大することは決して悪いことではないが、普通の生活者を置き去りにされることがあってはならない。

 資産格差の是正は政策制度の改善に期待すべきところが大きい。すなわち「所得税の累進度引上げ」「相続税・資産税強化」「最低賃引き上げ」「年金・医療等社会保険制度の充実」等々。その一方で労使の課題も大きい、今こそ生産性三原則のひとつ「成果の公正な配分」に立ち返ることが必要である。

 1955年日本生産性本部の設立とともに制定された生産性三原則。
(1)雇用の維持・拡大
 生産性の向上は、究極において雇用を増大するものであるが、過渡的な過剰人員に対しては、国民経済的観 点に立って能う限り配置転換その他により、失業を防止するよう官民協力して適切な措置を講ずるものとする。
(2)労使の協力と協議
 生産性向上のための具体的な方法については、各企業の実情に即し、労使が協力してこれを研究し、協議するものとする。
(3)成果の公正な分配
 生産性向上の諸成果は、経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて公正に分配されるものとする。

 その後労使はこの原則に沿って、労使協力のもと生産性向上を成し遂げ、産業企業を発展させるとともに、一億総中流と言われるほどの極めて厚い中間層を築いてきた。この中間層の活発な消費がGDPを押し上げ、高い経済成長を維持してきたことは言うまでもない。
 近年株主・経営者に比重が移りがちな利益配分を再度、会社・労働者・消費者に適切に配分されているか否か労使で真剣に議論・検討すべきである。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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