バックナンバー

No.529(2019/1/22)
アメリカ 低失業率の陰に隠れたギグワーカーの悲哀

 12月26日のワシントン・ポスト紙は「現在の3.7%の低失業率の陰に隠れたギグワーカー(※参照)の悲哀」とする論評(Opinion)を載せた。要旨は次のとおりである。

 『私はギグワーカー。仕事は2日で終わるか2年続くか分からない。会社でそんな私を見かけた事がありますか?

 2016年の調査では「2005年から2015年までの雇用増加の94%が代替的仕事」とされ、2018年には経済成長と減税もあり契約雇用が3.4%増加すると見られています。

 そんな世界に暮らし、昇給もなく基本手当てもない不安定な生活の私達が会社利益を押し上げ、失業率を低めています。失業者ではないが、潜在失業の私達が全米いたるところに300万人存在します。必死の思いでフルタイムを願っていますが、それは想像を超えて困難な道です。私達は病気になれば無給、休暇も無給、病院に行けば無給、会社には大変安く好都合です。健康保険もないため医者にも行けず、無理しても働きに行きます。

 私は将来のために切り詰めて貯金して、そこから基礎的な健康保険に入りましたが、重い病気や妊娠をすれば生活は破綻です。皆には楽しいクリスマスシーズンも収入のない私達には苦痛であり、貯金に手を付けざるを得ません。

 2017年の調査ですが、労働人口の36%、5730万人が自由契約(フリーランス)ないし短期契約労働者であり、それを企業は雇用の柔軟性と呼んでいます。私も時としてフリーランスの仕事を自宅でやりますが、料金は予め決められており、その仕事の3分の2は時給10ドル程度に過ぎません。

 そんな私が貴方の近くで働いています。みんな素敵な人達でこの職場が好きです。外注の派遣社員であり、文句を言える立場にはありませんが、会社が契約労働を頼りにするのであれば、もう少し、それなりの賃金と手当てを考えくれないものでしょうか?』

 以上が論評に掲載された女性と思われる非正規労働者の手記であるが、米国でも非正規労働者数は近年急増を示しており、その大半が女性と言われる中に、派遣労働、契約労働、パート、期間労働などの形態がある。また正規雇用を希望する者、柔軟な勤務時間や勤務地の希望、特定職種を希望する者などが存在する。賃金・諸手当は正規社員に比較して75%〜80%程度と言われ、医療保険なども無いケースが多い。危険な仕事の機会が多いにもかかわらず、職業訓練や保護措置も不充分な状態にある。苦情を言えば容易に解雇される。

 こうした現状を改善するには最低賃金の引き上げと共に労働組合の結成が必要である。
派遣労働者の労組組織化の動きとしては、オバマ政権下の全国労働関係委員会(NLRB)が2015年にチームスター労組の訴えに「派遣先会社は派遣会社と同様に派遣労働者の共同使用者であり、団体交渉に応じる事」と判定し、2016年にはAFL−CIO地域組織の訴訟を受けて「職場において正規労働者と派遣労働者とが共通の利害を有する場合は同一労組加入可能」と認定したが、共和党選出委員はこの双方に強く反対した。

 現在、共和党政権下にあってNLRBの過半数を共和党選出委員が占めた今、派遣労働者の労組加入の可能性は絶望的に思える。

 さらに1月3日のワシントン・ポストの「GMインディアナ工場の期間労働者採用はレイオフ組合員優先採用の労働協約に違反するとして、UAWが提訴に踏み切った」とする記事のように、労働組合は当然の事ながら組合員優先の姿勢が強い。

※ギグ労働とは

『スマートフォン等の情報通信端末を通じて利用者とサービスの提供者をその場限りでつなぐ実態から、コンサートでミュージシャンがその場だけ集まって演奏して解散することを意味するギグからギグ・エコノミーと呼ばれる。そのため、こうした働き方をギグ労働という。

独立行政法人労働政策研究・研修機構 国別労働トピック:2018年8月
「ギグ法を巡る議論 -ギグ・エコノミー化の労働者の権利」より抜粋

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.