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No.516(2018/9/18)
米・メキシコ暫定貿易協定は労働者にとって前進

 8月28日のワシントン・ポスト紙は昨日発表されたアメリカ(米)とメキシコ(墨)の暫定貿易協定について、J・バーンスタイン氏(ジョー・バイデン前副大統領主席経済補佐官)による見解を論説(opinion)として載せている。
 論説は米墨暫定貿易協定(以下、「暫定貿易協定」という)がトランプ大統領の否定した環太平洋パートナーシップ協定(以下、「TPP」という)に類似していると指摘し、また内容は両国の労働者にとってTPPより改善されたとしている。その要旨は以下のとおりである。

 先ず労働面だが、自動車の現地調達率について北米自由貿易協定(以下、「NAFTA」という)の62.5%をこの暫定貿易協定では75%に引き上げるとしている。これはTPPの45%をも大きく上回り、北米での生産比率を大幅に引き上げる事になる。TPP比率では大半の部品が中国などから購入可能で、その上にTPPの扱いを受けてしまう。
 また、次の改善点としては時給$16の賃金条項があり、自動車生産の45%、自動車部品の40%以上についてその賃金による製品と定めた。これもまた、米国での生産比率を高める事になる。そして、時給$16はメキシコ部品労働者賃金の4倍、組立工賃金の2倍に当たり、メキシコ労働者の賃金上昇を促す可能性が強い。

 更に暫定貿易協定には、TPPにおける弱い労働条項やNAFTAにおける強制力のない労働条項と違って、労働組合が大いに歓迎する内容が盛られている。その一つに、労働組合の選択や労働協定の承認をメキシコ労働者の無記名投票によると定めた条項があるが、その意味するところは、労働組合が従業員との協議なしに企業と低レベルの賃金協定を結んでいる現状体制への批判があり、メキシコ固有の保護的労働組合を終焉させる可能性がある。しかしながら、強制力が未だ不十分なことが暫定貿易協定の問題点である。

 次には投資家対国家の紛争解決条項(ISDS)があるが、NAFTAにおけるこの条項は投資家が被った損害について国が賠償する事にしている。暫定貿易協定ではこれが国の政策次第では認められなく可能性があり、撤廃ないし大幅改定が予測される。

 上記の改訂による労働水準の向上と投資家対国家の紛争解決条項の撤廃からは価格上昇の懸念の指摘もある。しかし暫定貿易協定が消費者価格の低減を目指すものであれば、価格をかさ上げしている商標権や著作権保護がなくなる可能性があり、TPPで特許権が保護されている薬品業界などの反対は強いが、最終的に価格上昇は抑えられるのではないか。

 貿易協定に取り組む先進的な意味は労働条件、消費者生活、環境基準の改善にあるが、これらは米国が口先で説得を試みながら、実現できなかった事柄である。最終的な協定締結には未だ長い道のりがある。新協定がNAFTAやTPP の誤りを正しつつ、強制力を持つことが出来れば、両国の労働者にとって大きな前進が期待できるのではないか。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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