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No.511(2018/8/3)
「悪い仕事の質を上げよう」

 7月8日のワシントン・ポスト紙の社説(Editorial Opinion) は補助医療研究所(Paraprofessional Healthcare Institute 以下PHI)スティーブン・ドーソンCEOの著作を紹介しながら「悪い仕事の質を上げよう」と説いている。その要旨は次のとおりである。

 彼はその著作“悪い仕事を良くしよう”(ピンカートン財団出版)の中で「現在の政策は恵まれない人を教育や訓練を通じて高賃金、熟練業務の中間所得層に引き上げようとしているが、それは低所得層の一部しか見ていないことだ。数千万の人々が社会に必要だが報いの少ない仕事に就いている。しかし低劣な仕事の改善策はなく、放置されたままである」と指摘する。

 自動車や鉄鋼などの産業が衰退した時には、労働組合が賃金労働条件、社会法制の整備、労働時間の短縮、安全衛生の保護を図り、古き時代のブルーカラー業務を良質な仕事として維持してきた。その教訓は「仕事の質の優劣は社会的、政治的に決定される。使用者が労働者をコストではなく資産と看做すかどうか」と言うことだ。

 ドーソン氏はPHIにおいて、従業員が所有者となる「在宅介護労働者協同組合」の創設に協力し、それまで低賃金の仕事を、独立企業として尊厳 をもつ業務に変えてきた。
 同氏はまた先述の著書で「低質の仕事は個人や家族、コミュニティーまでを不安定にする。充分な食料や住居を確保出来ないだけでなく、健康を損ない家族の将来や尊厳も無くし、職場での発言も出来なくする。低所得層の実質賃金はリーマン・ショック以降平均以上に落ち込んだが、特に小売業、医療介護、食品関係に酷い」と指摘して、現在の雇用市場を批判する。

 経済の底辺にある多くの人が苦しむのは生活の不安定さだ。パートタイム、季節労働、不規則な労働時間、予測できない仕事スケジュールは苦痛だ。低賃金はその最たるものだ。

 こうした劣悪な仕事の改善には公共政策が重要な役割を果たす。最低賃金を始め、減税などの所得補助、有給休暇、国民皆保険の健康保険制度などが必要だ。オバマケアは廃止するのでなく、改良することだ。多くの低所得者がメディケイド(低所得層向け医療保険)で補助されているが、その充実が必要だ。

 公共サービスは基礎的な仕事を提供するだけでなく、仕事を通じて労働者の生活の改善に深く寄与する。職業訓練による技能の向上充実も労働者に力を与え、その労働者の発言によって、サービスそのものの改良も図れる。

 更にドーソン氏はモーリーン・コンウエイ氏(アスペン研究所)との共同著書“仕事の約束を確保しよう”の中で「民間部門の貢献も重要だ。企業は仕事熱心で熟練の責任ある労働者を欲している。政府の政策には、良質な仕事の提供が企業利益となるような条件整備が必要だ。政府契約に良質の仕事を条件とすることが望ましい」と述べている。

 問題を隠蔽するトランプ政策のメロドラマを許してはならない。苦闘する多くの人々の生活への改革から目を背けてはならない。
 ドーソン氏は「仕事をして自分や家族に安定や尊厳をもたらすものに出来なければ、恐怖と不安は続く(前掲 共同著書)」と言う。仕事の質の問題、是非変革しなければならない。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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