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No.507(2018/7/10)
ベネズエラ国民が大量に国外脱出
ベネズエラのスラム街

 6月3日のワシントン・ポスト紙は「ベネズエラに国民の大脱出(エクソダス)が起きており、過去2年間に180万人、今年に入っては70万人が近隣諸国に国外逃避した。ハイパーインフレによる物価騰貴率は14,000%、公立学校教師の20%が国外脱出して多くの学級閉鎖、鉄道は改札駅員不在で無賃乗車状態、病院も医師・看護師が20%退職して手術予約に8-12カ月待ち、電力不足で停電続き、HIVやマラリアが蔓延」と報じている。

 かつては社会主義国のお手本と言われた3,000万人のこの国は、世界1と言われる石油埋蔵量のほか、ボーキサイトや鉄鉱石などの鉱物資源にも恵まれて、輸出の90%近くを石油収入に頼った福祉政策を推し進めてきた。しかし2014年からの石油価格の下落で財政が急激に悪化、赤字を補うために通貨を大量発行、同時に不足する食料品や日用品、医薬品を配給制にして価格統制したが、物資不足の深刻化とハイパーインフレの発生で経済は破綻した。そして「最低賃金1週間分で買えるのは卵1ダースという状況にありながら、行列を作っても商品を買えない人が続出している」(同日、ワシントン・ポスト)。
 政府は企業を国営化して強制稼働させるなどしているが、この状況に付け込んで各所で利権を巡る汚職が横行、食品や日用品、医薬品の横流しで闇経済が拡大しており、他方では一般国民は第2次大戦敗戦直後の日本の様に、物々交換を余儀なくされている。

 当時、日本の都市部の多くの家の主婦が、配給分では不足する米や野菜などを地方の農家に買い出しに行ったが、その際にインフレで価値を失った金銭を拒否されて、持参した着物などと米、野菜を物々交換していた。一方、こうした闇取引の摘発に当たった検事が配給以外の食品購入を頑なに拒否して餓死する事件があり、多くの同情が寄せられた。

 こうした状況にベネズエラ全土で数万人規模の抗議デモが行われ、各地で暴動に発展しているが、2013年に死亡したチャベス前大統領の後任、マドゥロ大統領(当時の副大統領)には策がなく、議会を停止させての強権政治、抗議デモへの暴力的鎮圧を繰り返している。
経済対策として「今年2月に原油価格と連動させる仮想通貨の『ペトロ』を発行して外貨獲得を目指しているが、信用度が疑問視されており、巨額の対外債務を抱えての債務不履行の可能性も指摘されている」(2月20日付ニューヨーク・タイムス)。
 ベネズエラ原油は粘度が高いために精製コストが高くつき、価格は低い。そのため価格下落の影響をひと際強く受けており、1バレル$50でも赤字だと言われる。

 しかしながら去る5月の大統領選挙では、反対派の選挙ボイコットや与党による反対派排除の動きもあって投票率46%という低率の中で、マドゥロ大統領が580万票対180万票で6年任期の再選を果たした。
 最高裁などの司法機関、選挙管理委員会への強い影響力を前大統領から受け継いだマドゥロ氏には公正性が疑問視される感もあるが、「貧者の救済」と「米国覇権主義の排除―南米の独立」を掲げながら、オバマ大統領には共感していた、カリスマ的存在の前チャベス大統領の社会主義理念に、貧困層や地方・農村部を中心とする多くの国民が未だ望みを抱いている姿もうかがえる。

 チャベス氏は1992年の中佐時代のクーデター失敗時に、テレビ会見でその理念を表明して国民に強い印象を与え、1999年に大統領に当選した。当時、同国はOPEC創立加盟国としての石油資源に恵まれながら、「国民の80%が貧困状態、60%に医療の恩恵がなく、労働者の25%にしか健康保険・年金がなかった」(2005年5月全日本民医連リポート)と言われる富裕支配層独占であったが、チャベス大統領は体制変革に取り組み、度々の抵抗を受けながらも、強い政治基盤を築いた。今回のマドゥロ再選もこの基盤が支えたと思われる。

 以上のような危機的な様相から内戦の発生も懸念されるが、頼みの綱は原油価格の上昇である。しかし、6月下旬にOPECが増産を決めた今、思う方向に国際価格が動くかどうか、南米に「シリアの悲劇再現」と言う避難民増大の事態が起きないことを祈るばかりである。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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