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No.501(2018/5/28)
韓国版「働き方改革」、新しいステージに
~「ロードマップ」の実現に向けた取り組み~
韓国大統領府(青瓦台)

 韓国では、昨年5月に、文在寅(ムン・ジェイン)氏が第19代大統領に就任して以来、雇用の改革を重視する政策、いわば韓国版の「働き方改革」が進行している。文氏は、大統領選挙で非正規労働や若年者雇用などの改善を公約に掲げていたが、就任後すぐに、大統領を委員長とする政労使等による「雇用委員会」を設置し、取り組みを開始した。その立ち上がりの状況は既報のとおりである(メルマガNo.469:2017年8月3日)。

 「雇用委員会」は、昨年6月に論議をスタートした。その後、7月に大統領が示した「国政運営5か年計画」を踏まえて審議を続け、10月中旬に「雇用政策5年ロードマップ」を決議するに至った。「ロードマップ」では、今後の政策の基本姿勢を「国政の運用を雇用中心に再設計する」としつつ、つぎのようなテーマを示した。それは、①雇用の質の改善、②公共部門の雇用拡大、③民間部門の雇用創出、④雇用インフラの構築、などである。
 この「ロードマップ」には、具体的な目標が示されている。雇用の質の改善については、まず、同一価値労働同一賃金の確立である。「非正規労働ゼロ」に向け、公的事業や政府部門での取組を先行させ、公共部門では81万人の雇用を創出することが示されている。また、最低賃金について「時給一万ウオン」(約1050円)まで引き上げることが掲げられた。当時(2017年)の最低賃金は6470ウオン(約680円)であったが、この目標を受け、今年1月から、7530ウオン(約790円)に引き上げられている。

 また、「ロードマップ」には「実行計画」が示されており、そこでは、「現場点検チーム」による四半期ごとの検討を求めている。韓国では重要政策の展開にスピードが求められることが多い。大統領は任期五年で再選がなく、支持率が高い時期に、国民の注目を惹きつけながら、関係者のコンセンサスを獲得して、速やかに政策を進めることが期待される。とくに、文政権の与党(「ともに民主党」)は国会では少数であるため、世論の強い支持が必要とされる。
 さて、今年に入り、韓国の雇用の改革は、憲法改正のテーマとしても注目されるようになった。大統領をめぐる不祥事などが続いていることから、憲法改正による制度の改革を求めることでは与野党が一致している。しかし、国会では、与野党の厳しい対立により論議の足踏みが続いていた。このような状況を踏まえ、3月26日、大統領の権限により、憲法改正案が国会に提起された。そこでは大統領制度の改革に加えて、労働者等の権利の拡充が打ち出されたのである。

 この憲法改正案では、労働者の権利の拡充として、同一労働同一賃金の努力義務、公務員のストライキ権の制限縮小、第四次産業革命を意識した情報基本権などが示されている。また、憲法改正とあわせて、労働者の経営参加の新たな法制化が提示され、さらに「サービス労働者」の保護制度が提起されている。後者は、韓国では「感情労働者」の問題とされ、販売などの接客業務のことであるが、提案では「モンスター来客」からの被害がある場合の上司による対応などが義務付けている。

 文大統領が労働問題を憲法改正のテーマに加えたねらいは、「ロードマップ」に基づく雇用の改革を後押しすることにあるといわれる。現実にはこの改正案がそのまま実現する見込みは少ない。韓国の制度では、大統領は憲法改正を国会に発議できるが、その可決には国会議員の三分の二以上の賛成が必要だからである。しかし、現状では最大野党の自由韓国党が約4割の議席を保持している。しかし、大統領が現在の高い支持率を維持し、6月13日に予定される地方選挙に大勝すれば、世論の支持が強まることも想定される。いずれにしても、韓国版「働き方改革」は新しいステージを迎えており、今後の動向が注目される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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