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No.497(2018/3/30)
アメリカの労働事情

【組合費徴収の違憲判決は保守派に思わぬ結末を招く】

 3月1日、最高裁において「公務員労組による非組合員からの組合費徴収を違憲とする訴訟」の審議が始まった。今まで共和党指名4名、民主党4名の判事構成の中、決着がつかなかった案件が、トランプ大統領指名のゴーサッチ新判事が加わった共和党優位の下で審議される。
 原告を支援する共和党保守派は労働組合の弱体化、壊滅を狙っているわけだが、それで良いのだろうか? 数十年にわたって続いた労働慣行を、行き過ぎた短絡的な判決で覆すことは職場に混乱を起こし、団体交渉権を巡る各種紛争に憲法論議を巻き起こす。

 組合費は単に労働組合の代表権への報酬だけでなく、職場組合員を代表するための政治コストライキであり、労使平和を維持するコストだということを保守派は見逃している。
 州地方自治体労働組合(AFSCME)の法律顧問が指摘するように「多くの労働協約が組合費徴収とストライキ放棄とを併記している。なくなれば混乱が予測される」事になる。

 米国労働法は、使用者もそうだが、職場の労働組合は単一が好ましいとしている。
意味するところは「労働組合が職場組合員を公正に代表する法的義務を負うこと。また同意した労働協約を全力で遵守すること。こうして労働組合に存在権が認められ、組合費を支払う組合員という基盤が保障される。使用者には妨害のない企業運営が保障され、労働組合は協約期間中の組合員の不満や違背行為を抑える」と言うことになる。
 この排外的労働組合権、組合費の強制徴収、ノー・ストライキ条項、使用者の権利と言ったものが労使関係制度についての米国特有の根幹であり、どの一つを除いても全体が瓦解する。使用者もこうした混乱は好まないであろう。

 この法律が進化するニュー・ディール政策以前には、多くの労働組合が職場で競合し、他に勝る要求と破壊的な運動や、生産的な労使関係もあったが、お情け待遇もあった。しかし長期的な産業平和を実現する労使協定はなく、労働組合は他者に勝る労働条件を目指して抗議行動を繰り返した。1911年以降、ニューヨークのホテル業界ではアナーキストと共産主義者の組合が競合してストライキを展開したが、それが収まったのは1938年の組合統合による労働評議会の実現である。

 第2次世界大戦時には愛国心を示すため、労働組合はノー・ストライキを約束、政府はインフレ対策のために賃金を凍結した。そこでは、物価騰貴に苦しんで山猫ストライキに走った労働者が解雇される事態に、多くの労働者が組合を脱退した。
 脅威を感じた労組指導者はノー・ストライキの放棄を考えたが、この時期に労・使・公による“全国戦時労働委員会”が産業平和のため、採用時の労働組合自動加入という「組合員資格の保持制度」導入を奨励した。これが協約期間中の組合費強制徴収であり、現在のユニオン・ショップと組合費制度に進展した。

 今回、最高裁が組合費徴収を違憲とするならば、多くの労働組合が排外的な代表権を放棄することになる。代表権放棄の動機は労働協約の恩恵を受けながら組合費を支払わない「ただ乗り」の排除にあるが、そうした後には、新たな労働組合がその穴を埋めるべく競合する。最初の組合は多分保守派であろう。
 正式な労働組合を認めず団体交渉権を否定する南部諸州には、教員組合に競合して、最低レベルのサービスを提供し政治活動を行わない組織が既に存在する。
 右翼団体がオルグを使って組合員家庭を訪問させ、組合費を払わなくてよいと説明して、反組合的な組合に加入させて共和党の政策に協力させる。その行き着く先は新たな左翼的・戦闘的な労組の誕生であり、現状に満足せず、少しのことでは妥協しない労組となる。

 現行法では意見の相違は多数派が支配する事になっているが、組合費強制徴収廃止後の任意代表制度では、自己中心主義の小さな多数の組合が派生する。
 イリノイ州の検察長官は「組合費徴収を禁じられた労働組合はより戦闘的、より対決的になる」と警告し、AFSCME法律顧問も「強制組合費と引き換えだったノー・ストライキ条項が無くなれば、数千の協約改定交渉では全米に労働不安が広がる」と指摘する。

 現在の最高裁審議は公務員に関するものだが、民間でも強制徴収を禁じた“労働の権利法”が共和党優位の多くの州で採用されている。現在の最高裁訴訟を後押しする金持ちの右翼団体はその矛先を今、民主党支配の各州にも向けている。
 ノー・ストライキ条項は使用者にも一定期間の産業平和を齎すものだったが、労働者が組織を脱退して山猫ストライキに走り、現行協約には縛られない他組合に加入して不意の争議行為を行うとしても、それを禁じることはできなくなる。労使関係に不平等を感じ、今の労働運動に不満を感じながら突破口を模索している労働運動家にも、混乱は歓迎されるだろう。

 短絡的な党略で労働組合の弱体化を考えている保守派は、この状態を再度考慮しなければならない。最高裁が保守派の考えを受け入れたとしても、出て来る結果は彼らが望むものにはならない。

【世界に影響を与える全米女子サッカー選手会労組】

 2年前、男性と同待遇を要求して立ち上がった全米女子サッカー選手会労組の成功に、世界各地の女子スポーツ選手からの注目が集まっている。 
 サッカーチームは当時、人工芝でなく男子サッカーチームと同じ自然芝のプレイ、エコノミーでなくビジネスクラス、定額給与などをUSサッカー協会に要求、間近であったワールド・カップ出場ボイコットも覚悟して要求を通し、その後も選手会労働組合育成に着実な努力を続けている。

 カナダのサッカー選手からは労働協約に出産休暇をどう組み込むのか、全米女子バスケットボール選手からはホテルや旅費、トレーナーについて、先のピョンチャン・オリンピック優勝の全米女子ホッケーチームからも助言を求められている。
 こうした状況に全米サッカーのプレス選手は「スポーツ界だけでなく、一般の女性からも女性が団結する重要性が認識され始めていると感じている」と話す。

 スペインでは前回ワールド・カップ優勝の女子チームがコーチの追放を要求して立ち上がり、ブラジルのチア・リーダー達は女子コーチの解任に抗議して退団、ナイジェリアではアフリカ・カップ優勝の選手たちが給与不払いに抗議して座り込み、アイルランドと豪州ではストライキ、昨年10月にはノルウエー女子選手が男子と同待遇を要求して、獲得した。

 こうしした女子スポーツ界の権利闘争に先鞭をつける全米女子サッカーの活動について、10年前のワールド・カップに優勝し女性差別撤廃に闘ったテレビ解説のジュリー・ファウディーさんは「女子サッカー選手会の活動を強くまとめてきたのはベッカ・ルー事務局長の存在が大きい。選手たちが自分で労使交渉に当たり、各種役員を務め、役員選挙をも主催してきた。サッカー協会との定例会議にも自分達が常時出席して協約の遵守状況を見守っている。喜ばしく、また大変大事なことだ」と称賛する。

 全米サッカーから最大の恩恵を受けたのがオリンピック優勝の女子ホッケーだが、助言を受けながら給与・労働条件の改善を要求、ワールド・カップ出場辞退も示唆しながら要求を貫徹した。オリンピック3回出場のマービン選手は「女性同士が助け合うのは素晴らしい。それは正しい事、公正・フェアーな事への助け合いで、子供や孫時代にも続く事」と話す。

 しかし選手には個人実績とチーム優勝が一番大事なことだ。女子サッカーチームは今、新人ドラフト27名を含む58選手がトレーニング・キャンプに汗を流し、2019年のワールド・カップ優勝を目指す。ゴール・キーパーのオハラ選手やラピノー、モーガン、プーと言った有名選手も健在である。
 その一方、組合活動ではオハラ選手がプレス選手と共に執行委員に就任、ラピノー選手たちは選手会組合がNFL(フットボール)やWNBA(バスケット)と共同設立したブランド・ライセンス事業の役員を務めている。しかし同時に各種のスポーツ団体から助言を求める声も続いており、それにも応えねばならない。アイルランドのサッカー選手からの苦情相談、アルゼンチン選手からは対ウルグアイ戦でバスに寝かされ、$8.50の手当てしかないとの相談などが続いている。

 プレス選手は「選手会組合のために多くの仕事をしているが、それは自分のためだ。自分のために立ち上がるのも、良き先例を創るという希望があるからだ。皆が我々に励まされ、我々も皆に励まされ、それで全体が強くなる」と語る。

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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