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No.312(2015/5/7)
インドネシアのメーデーと最低賃金の動向

 インドネシアでは、昨年、5月1日が国民の祝日(「レーバーデー」)となり、ジャカルタをはじめ各地でそれを記念する集会やイベントが行われた。今年のメーデーでは、最低賃金の引上げが焦点となり、労働組合は全国で大規模な活動を行った。「インドネシア労働組合総連合(KSPI)」は、3つの主要なナショナルセンターのひとつであるが、今年のメーデー集会では、最低賃金の毎年改定を止めたいとする政府の方針に抗議して、全国で100万人規模のデモを展開した。
 インドネシアでは、この間、最低賃金の上昇が続き、ジャカルタ特別州では、2013年には43.8%、2014年には11.0%、2015年には10.6%の引き上げが行われている。現在の金額は、月額270万インドネシア・ルピア(約2万4570円)である。最低賃金は、工場労働者の賃金に直結するだけではなく、事務職や管理職の賃金にも少なからず影響を及ぼすため、日本の「春闘」のような位置づけとして社会的にも注目されている。
 この最低賃金制度は、「インドネシア労働法(2003年法律第13号)」に基づくもので、三者構成の審議会での検討を踏まえて、知事、市長など地方自治体のトップが賃金額を決定する。審議会は、60項目の物価などについて地域の実情を調査し、適正生活水準(KHL)を算定、最低賃金の金額等を地方のトップに勧告する。最低賃金は例年、11月に翌年の金額が確定され発表される。  現在の最低賃金の水準について、インドネシアの労働組合は、タイなど他の東南アジアの中進国と比べて低いとして、さらなる引き上げを要求している。昨年秋には、労働組合側が「2015年の最低賃金は最低でも30%アップすべき」と主張し、「インフレ率+微増の10%」を主張する経営側と対立した。労働組合側は、KHLの60項目には合理性がないとして、84項目に再編するよう提案している。そして、「インドネシア労働法」が、「政府は、適切な生活の需要に基づいてかつ経済成長と生産性向上を考慮しつつ、最低賃金を規定する」(第88条4項)としていることに矛盾すると主張している。
 インドネシアのメーデーは、1998年の民主化以降、活性化し、その年の労使関係や労働運動の方向を示すものとして注目されてきた。昨年は、KSPIの集会に、旧スハルト政権の流れを汲むグリンドラ党の大統領候補であるプラブウオ氏が登壇、最低賃金を含む「労働者の10要求」への支持を表明し、周囲を驚かせた。大統領選挙は、昨年の10月に行われ、グリンドラ党とは対立する闘争民主党のウイドド氏(前ジャカルタ州知事)が当選した。KSPI以外の2つのナショナルセンターはウイドド氏を支持しており、労働団体の対応が分かれるなかで、インドネシアの新政権は、最低賃金や労働法制の改正などに本格的に取り組む時期を迎えている。

*1インドネシア・ルピア=0.0091円(2015年4月27日現在)

発行:公益財団法人 国際労働財団  https://www.jilaf.or.jp/
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