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No.252(2014/7/11)
サッカーブラジルワールドカップに見る中南米の中産階級の急増

 今回のブラジルにおけるサッカーワールドカップ観戦に、中南米諸国から20万人を超すサッカーファンが集まった。彼らはメキシコやコロンビアはじめ、コスタリカやウルグアイからも、バスや各種乗り物を乗り継いできたものが多く、宿泊もテント、食事代も節約という観戦者がかなりいる。
 ブラジル、コロンビア、アルゼンチン、メキシコといった中南米諸国は、先進諸国に比べても所得格差が大きいが、このことは中南米における中産階級の増加を示すものとみられ、世界銀行はその割合を人口の30%と算定している。米州開発銀行の調査でも2003年以降、中産階級が60.3%増加し、貧困レベルの人が34%減少して、それまでの貧困状態から脱出しつつあるという。その間、教育レベルの上昇や数百万人への福祉手当の支給によって、一人当たり国民所得は年間5.1%上昇した。
 ブラジル以外の中南米諸国によるサッカー観戦券の売り上げは20万8000枚で、米国の20万枚、欧州最大のドイツの6万枚を凌ぐ。
 チリからの3人は、ホテル代として相部屋で一泊につき270ドルで3週間、飛行機代を含めてかなりの負担である。他方、同じチリから来た80人は対スペイン戦の観戦券が買えなかったため、スタジアムに乱入して、国外退去を命ぜられるケースもあった。こうした熱狂的なファンが応援チームに帯同する姿は、過去から欧州チームに見られたが、今や中南米チームにも同じことが起きている。
 国によってはグアテマラやエルサルバドル、ホンジュラスのように2000年以降中産階級が減少した国もあるが、人口2億人を抱えるブラジルは、所得格差の問題はありながら中産階級比率は中南米最大であり、過去10年間生活水準は着実に上昇している。
 ブラジルの経済学者の中には「デジタルテレビが買えるからとはいえ、下水道設備もないのが現状だ。中産階級などといえたものではない」と批判する者もいる。一方、コロンビアの化学会社に働くある労働者は、ハンモックで眠る船旅と、飛行機でブラジルに到着したが、「両親の時代とは違う。母親は50歳になるまで海を見たことはなかった世代だった」と話す。
 中産階級の基準は国や地域によって違いがあり、1日10ドル(約1014円)の収入を基準とする所もあって論議も多いが、いずれにしても中南米諸国がそれぞれ所得を向上させ、自国のサッカーチーム応援にブラジルに押し掛ける姿は大きな救いである。ただし、サッカー会場に見られる中南米チームの応援者の大多数が、白人系の顔だけという指摘もある。

*1ドル=101.48円(2014年7月1日現在)

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